著作権に関する世界知的所有権機関条約

法令のあらまし
1996年(平成8年)12月20日  ジュネーヴで作成
2000年(平成12年)6月6日  加入書寄託 2002年(平成14年)2月15日 公布(条約1号)
2002年(平成14年)3月6日  効力発生
前 文
締約国は、
 文学的及び美術的著作物に関する著作者の権利の保護をできる限り効果的かつ統一的に発展させ及び維持することを希望し、
 新たな経済的、社会的、文化的及び技術的発展によって生ずる問題について適当な解決策を与えるため、新たな国際的な規則を導入するとともに現行の規則の一部についてその解釈を明確にする必要があることを認め、
 情報及び通信に係る技術の発展及び融合が文学的及び美術的著作物の創作及び利用に重大な影響を与えることを認め、
 次のとおり協定した。
第一条 ベルヌ条約との関係
(1)   この条約は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約によって設立された同盟の構成国である締約国については、同条約第二十条に規定する特別の取極を構成する。この条約は、ベルヌ条約以外の条約といかなる関係も有するものではなく、また、この条約以外の条約に基づくいかなる権利及び義務に影響を及ぼすものでもない。
(2)   この条約のいかなる規定も、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に基づく既存の義務であって締約国が相互に負うものを免れさせるものではない。
(3)   この条約において、「ベルヌ条約」とは、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約の千九百七十一年七月二十四日のパリ改正条約をいう。
(4)   締約国は、ベルヌ条約第一条から第二十一条までの規定及び同条約の附属書の規定を遵守する。
 
第二条 著作権の保護の範囲
 著作権の保護は、表現されたものに及ぶものとし、思想、手続、運用方法又は数学的概念自体に及ぶものではない。
 
第三条 ベルヌ条約第二条から第六条までの適用
 締約国は、この条約に定める保護について、ベルヌ条約第二条から第六条までの規定を準用する。
 
第四条 コンピュータ・プログラム
 コンピュータ・プログラムは、ベルヌ条約第二条に定める文学的著作物として保護される。その保護は、コンピュータ・プログラムの表現の方法又は形式のいかんを問わず与えられる。
 
第五条 データの編集物(データベース)
 素材の選択又は配列によって知的創作物を形成するデータその他の素材の編集物は、その形式のいかんを問わず、知的創作物として保護される。その保護は、当該データその他の素材自体に及ぶものではなく、また、当該編集物に含まれるデータその他の素材について存在する著作権を害するものでもない。
 
第六条 譲渡権
(1)   文学的及び美術酌著作物の著作権は、その著作物の原作品及び複製物について、販売その他の譲渡による公衆への供与を許諾する排他的権利を享有する。
(2)   この条約のいかなる規定も、著作物の原作品又は複製物の販売その他の譲渡(著作者の許諾を得たものに限る。)が最初に行われた後における(1)の権利の消尽について、締約国が自由にその条件を定めることを妨げるものではない。
 
第七条 貸与権
(1)   次に掲げるものの著作者は、当該著作物の原作品又は複製物について、公衆への商業的貸与を許諾する排他的権利を享有する。
 (i) コンピュータ・プログラム
 (ii) 映画の著作物
 (iii) レコードに収録された著作物であって締約国の国内法令で定めるもの
(2)   (1)の規定は、次の場合には適用しない。
 (i) コンピュータ・プログラムについては、当該コンピュータ・プログラム自体が貸与の本質的な対象でない場合
 (ii) 映画の著作物については、商業的貸与が当該著作物に関する排他的複製権を著しく侵害するような広範な複製をもたらさない場合
(3)   (1)の規定にかかわらず、レコードに収録された著作物の複製物の貸与に関して著作者に対する衡平な報酬の制度を遅くとも千九百九十四年四月十五日以降継続して有している締約国は、レコードに収録された著作物の商業的貸与が著作者の排他的複製権の著しい侵害を生じさせていないことを条件として、当該制度を維持することができる。
 
第八条 公衆への伝達権
 ベルヌ条約第十一条(1)(ii)、第十一条の二(1)(i)及び(ii)、第十一条の三(1)(ii)、第十四条(1)(ii)並びに第十四条の二(1)の規定の適用を妨げることなく、文学的及び美術的著作物の著作者は、その著作物について、有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。
 
第九条 写真の著作物の保護期間
 締約国は、写真の著作物については、ベルヌ条約第七条(4)の規定によらないこととする。
 
第十条 制限及び例外
(1)   締約国は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合には、この条約に基づいて文学的及び美術的著作物の著作者に与えられる権利の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
(2)   ベルヌ条約を適用するに当たり、締約国は、同条約に定める権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。
 
第十一条 技術的手段に関する義務
 締約国は、著作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物について実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関連して当該著作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。
 
第十二条 権利管理情報に関する義務
(1)   締約国は、この条約又はベルヌ条約が対象とする権利の侵害を誘い、可能にし、助長し又は隠す結果となることを知りながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関し、適当かつ効果的な法的救済について定める。さらに、民事上の救済については、そのような結果となることを知ることができる合理的な理由を有しながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関しても、これを定める。
 (i) 電磁的な権利管理情報を権限なく除去し又は改変すること。
 (ii) 電磁的な権利管理情報が権限なく除去され又は改変されたことを知りながら、関係する著作物又は著作物の複製物を権限なく頒布し、頒布のために輸入し、放送し又は公衆に伝達すること。
(2)   この条において、「権利管理情報」とは、著作物、著作物の著作者、著作物に係る権利を有する者又は著作物の利用の条件に係る情報を特定する情報及びその情報を表わす数字又は符号をいう。ただし、これらの項目の情報が著作物の複製物に付される場合又は著作物の公衆への伝達に際して当該著作物とともに伝達される場合に限る。
 
第十三条 適用期間
 締約国は、この条約に定めるすべての保護について、ベルヌ条約第十八条の規定を適用する。
 
第十四条 権利行使の確保に関する規定
(1)   締約国は、自国の法制に従い、この条約の適用を確保するために必要な措置について定めることを約束する。
(2)   締約国は、この条約が対象とする権利の侵害行為に対し効果的な措置(侵害を防止するための迅速な救済措置及び追加の侵害を抑止するための救済措置を含む。)がとられることを可能にするため、権利行使を確保するための手続を国内法において確保する。
 
第十五条 総会
(1)(a) 締約国は、その総会を設置する。
 (b) 各締約国は、一人の代表によって代表されるものとし、代表は、代表代理、顧問及び専門家の補佐を受けることができる。
 (c) 各代表団の費用は、その代表団を任命した締約国が負担する。総会は、世界知的所有権機関(WIPO)に対し、国際連合総会の確立された慣行に従って開発途上国とされている締約国及び市場経済への移行過程にある締約国の代表の参加を容易にするために財政的援助を与えることを要請することができる。
(2)(a) 総会は、この条約の存続及び発展並びにこの条約の適用及び運用に関する問題を取り扱う。
 (b) 総会は、政府間機関が締約国となることの承認に関し、第十七条(2)の規定により与えられる任務を遂行する。
 (c) 総会は、この条約の改正のための外交会議の招集を決定し、当該外交会議の準備のために世界知的所有権機関事務局長に対して必要な指示を与える。
(3)(a) 国である締約国は、それぞれ一の票を有し、自国の名においてのみ投票する。
 (b) 政府間機関である締約国は、当該政府問機関の構成国でこの条約の締約国である国の総数に等しい数の票により、当該構成国に代わって投票に参加することができる。当該政府間機関は、当該構成国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票に参加してはならない。また、当該政府間機関が自らの投票権を行使する場合には、当該構成国のいずれも投票に参加してはならない。
(4)   総会は、世界知的所有権機関事務局長の招集により、二年に一回、通常会期として会合する。
(5)   総会は、臨時会期の招集、定足数、種々の決定を行う際に必要とされる多数(この条約の規定に従うことを条件とする。)その他の事項について手続規則を定める。
 
第十六条 国際事務局
 世界知的所有権機関国際事務局は、この条約の管理業務を行う。
 
第十七条 締約国となる資格
(1)   世界知的所有権機関の加盟国は、この条約の締約国となることができる。
(2)   総会は、この条約が対象とする事項に関し権限を有し及びそのすべての構成国を拘束する自らの法制を有する旨並びにこの条約の締結につきその内部手続に従って正当に委任を受けている旨を宣言する政府間機関が、この条約の締約国となることを認める決定を行うことができる。
(3)   欧州共同体は、この条約を採択した外交会議において(2)に規定する宣言を行っており、この条約の締約国となる資格を有するものとする。
 
第十八条 この条約に基づく権利及び義務
 各締約国は、この条約に別段の定めがある場合を除くほか、この条約に基づくすべての権利を享有し、すべての義務を負う。
 
第十九条 署名
 この条約は、千九百九十七年十二月三十一日まで、世界知的所有権機関の加盟国及び欧州共同体による署名のために開放しておく。
 
第二十条 効力発生
 この条約は、三十の国の批准書又は加入書が世界知的所有権機関事務局長に寄託された後三箇月で効力を生ずる。
 
第二十一条 締約国について効力が生ずる日
 この条約は、次に掲げる日から締約国を拘束する。
 (i) 前条に規定する三十の国については、この条約が効力を生じた日
 (ii) (i)の国以外の国については、当該国が世界知的所有権機関事務局長に批准書又は加入書を寄託した日から三箇月の期間が満了した日
 (iii) 欧州共同体については、前条の規定によるこの条約の効力発生の後にその批准書又は加入書が寄託された場合には、その寄託の日から三箇月の期間が満了した日。この条約の効力発生以前に当該文書が寄託された場合には、この条約の効力発生の日から三箇月の期間が満了した日
 (iv) 欧州共同体以外の政府間機関で締約国となることを認められたものについては、その加入書が寄託された日から三箇月の期間が満了した日
 
第二十二条 留保の禁止
 この条約には、いかなる留保も付することができない。
 
第二十三条 廃棄
 いずれの締約国も、世界知的所有権機関事務局長にあてた通告により、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務局長がその通告を受領した日から一年で効力を生ずる。
 
第二十四条 言語
(1)   この条約は、ひとしく正文である英語、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語及びスペイン語による原本一通について署名する。
(2)   世界知的所有権機関事務局長は、いずれかの関係国の要請により、すべての関係国と協議の上、(1)に規定する言語以外の言語による公定訳文を作成する。この(2)の規定の適用上、「関係国」とは、世界知的所有権機関の加盟国であって当該公定訳文の言語をその公用語又は公用語の一とするもの並びに欧州共同体及び締約国となる資格を有する他の政府間機関であって当該公定訳文の言語をその公用語の一とするものをいう。
 
第二十五条 寄託者
 この条約の寄託者は、世界知的所有権機関事務局長とする。