よくある質問

2.審査便覧

☆10.30A
特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けるために必要な要件

 特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けるためには、下記の要件を満たしていなければならない。

1.特許法第30条第1項関係

 (1)試験を行った場合
(i)特許を受ける権利を有する者が試験を行っていること

(ii)試験を行うことにより、発明が初めて公知になっていること

(iii)特許を受ける権利を有する者が特許出願をしていること

(iv)試験を行った日から6ヶ月以内に出願をしていること

(v)試験を行った発明が、特許出願に係る発明であること


 (2)刊行物に発表した場合
(i)特許を受ける権利を有する者が刊行物に発表していること

(ii)刊行物が頒布され、発明が初めて公知になっていること

(iii)特許を受ける権利を有する者が特許出願をしていること

(iv)刊行物が発表された日から6ヶ月以内に出願していること

(v)刊行物に発表した発明が特許出願に係る発明であること

 (3)研究集会において文書をもって発表した場合
(i)特許を受ける権利を有する者が研究集会において文書をもって発表していること

(ii)発表することにより、発明が初めて公知になっていること

(iii)発表が、特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会でなされていること

(iv)特許を受ける権利を有する者が特許出願をしていること

(v)発表した日から6ヶ月以内に出願していること

(vi)発表した発明が特許出願に係る発明であること

2.特許法第30条第3項関係

   博覧会に出品した場合
(i)特許を受ける権利を有する者が博覧会に出品していること

(ii)出品することにより、発明が初めて公知になっていること

(iii)出品した博覧会が、@政府等が開設する博覧会、A政府等以外の者が開設するものであって特許庁長官が指定する博覧会、Bパリ条約の同盟国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会、又はCパリ条約の同盟国以外の国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的なものであって、特許庁長官が指定する博覧会のうちそのいずれかであること

(iv)出品した日から6か月以内に出願していること

(v)出品したものに係る発明が特許出願に係る発明であること
 
 
☆10.31A
特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けるための手続

特許出願に係る発明について特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けるためには、
 1.その旨を記載した書面が特許出願と同時に特許庁長官に提出されているか(特30条4項)、あるいは願書にその旨が記載されていなければならない(特施規27条の4)。
 2.その特許出願の日から30日に以内に、出願に係る発明が特許法第30条第1項又は第3項に規定された発明であることを証明する書面が提出されていなければならない(特30条4項)。
 上記1又は2のいずれかがなされてない場合には、特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けることができない。
 
 
特許法第30条第4項にいう「証明する書面」についての取扱い

 いわゆる「証明書」に限らず、それ以外の「書面による証拠」も「証明する書面」として取り扱うこととする。
(説明)
 特許法第30条第4項の「証明する書面」については、その内容、形式共に他に何ら法定されていない。そのため、提出されてくる「証明する書面」の内容、形式は種々多様にわたらざるを得ない。
 ところで、一般に「証明」とは「当事者が裁判の基礎となる事実の存否につき裁判官に確信を抱かせることを目標として証拠を提出する努力をいう。」とされている(民事法学辞典、有斐閣)。これを特許法第30条の第4項の「証明」に換言すると「出願人が特許法第30条第1項又は第3項の要件事実の存否につき審査官に確信を抱かせることを目標として証拠を提出する努力をいう。」ということとなり、「証明する書面」は「書面」として提出される上記「証拠」をいうものと解することができる。
 そして、この場合の証拠には、いわゆる「証明書」は勿論、その他刊行物等の書面による証拠が含まれる。
 
 
特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受けるための、 「公開者」が「特許を受ける権利を有する者」であることの証明

 発明者、公開者および出願人のうち、公開者のみが相違する場合、又は前記三者の全てが相違する場合には、公開時において公開者が、現に「特許を受ける権利」の正当な承継人であることが「証明する書面」(特30条4項)によって証明されていなければならない。
(説明)
 特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受ける旨主張されている特許出願にあっては、「特許を受ける権利を有する者が所定の公開行為をし、その者が特許出願する」こともその要件の一部である以上、公開者が公開時に、出願人が出願時にそれぞれ特許を受ける権利を有する者であることが「証明する書面」によって証明されていなければならないものである。
 しかるに、一般の特許出願にあっては、出願人に対し、特許を受ける正当な権利を有する者であることを、必ずしも証明させていない(特施規5条)。これは、発明者および出願人の名称を願書面に記載することを義務づけていることから、出願人は特許を受ける正当な権利者であろうと推定した結果によるものであり、この推定を左右するような事情が生じた場合には、当然に両者の関係を証明させる必要がある。
 特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を受ける旨主張している特許出願について上記事情を考慮すると、発明者、公開者及び出願人の三者が一致している場合は勿論、公開者が発明者又は出願人のいずれかと一致している場合も、公開者が特許を受ける正当な権利者であろうと推定する蓋然性は高いといえる。
 しかし、発明者、公開者及び出願人のうち、公開者のみが相違する場合、及び前記三者の全てが相違する場合は、上記推定の働く蓋然性は低いものと言わざるを得ない。
 したがって、この場合に限って、本文のように取り扱うこととする。
 ただし、この場合以外でも、推定を働かすことが困難であると判断したときは、出願人にその間の関係を証明させることは勿論である。
 
 
特許法第30条第1項の「試験を行う」場合における 「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要がある事実

試験を行うことにより公知になった発明について、下記の事実が、特許出願の日から30日以内に提出された「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要がある。
 
  1.試験を行った日
  2.試験を行った場所
  3.試験を行った者(→10.33)
  4.試験内容
(説明)
 特許法第30条第1項又は第3項の規定の適用を認めるには、「特許庁における顕著な事実」以外は10.30に掲げた要件の全てが証明されていなければならない。
 そして、特許法第30条第4項の規定によると、出願人に対し、特許出願の日から30日以内に「証明する書面」を提出する義務を課し、これによって上記要件を証明させることとしている。
 しかし、この要件の中には、たとえば「公開された発明と特許出願に係る発明との同一性の判断」のような審査官の実体的判断に任せられている部分もあり、また発明の「公開、非公開」のような出願人にとって短期間に証明することが困難であろうと思われる部分もある。そこで、前記要件について「事実である」と審査官が判断するために最小限必要であり、かつ出願人にとっても短期間に立証することが可能であろう事実については、出願人が「証明する書面」によって明示すると共に証明する必要があることとした。
 なお、前記「公開、非公開」(公知性)については、出願人が特許法第30条第4項の手続をしている場合には、出願人にとってその発明が公知になったと認識していることが前提であって、改めて公知性について云々しても、審査上、この出願に対し、何らの影響を与えるものではない。したがって、発明の公知性については「証明する」対象外とした。 上記事実が「証明する書面」によって証明されれば、その事実に基づいて審査官が実体的判断をすることによって10.30に掲げた要件について事実認定の判断が可能となるものである。
(注)
「試験を行う」場合には、「証明する書面」として、立会人による証明書が提出されて来ることが多い。
 
 
☆10.35A
特許法第30条第1項の「刊行物に発表する」場合における 「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要のある事実

 刊行物に発表した発明について、下記の事実が特許出願の日から30日以内に提出された「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要がある。
1.逐次刊行物に発表した場合
  (i)刊行物名、巻数、号数
  (ii)発行年月日
  (iii)発行所
  (iv)該当頁
  (v)著者名(発表者名)(→10.33)
  (vi)発表された発明の内容
2.上記1以外の刊行物に発表した場合
  上記1の場合に準じて取り扱う。
(説明)便覧10.34Aの(説明)を参照
 (注)「刊行物に発表」の場合には「証明する書面」として、その刊行物が提出されて来ることが多い。
 
 
☆10.36A
特許法第30条第1項の「研究集会において文書をもって発表する」場合の 「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要のある事実

 特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表することによって公知となった発明について、下記の事実が特許出願の日から30日以内に提出された「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要がある。
 1.研究集会名
 2.主催者名
 3.開催日
 4.開催場所
 5.文書の種類
 6.発表者名(→10.33)
 7.文書に表現されている発明の内容
(説明)
 1.便覧10.34Aの(説明)を参照
 2.特許庁長官が指定した学術団体であることについては「特許庁における顕著な事実」であるから「証明」を要しない。
(注)
 「研究集会における発表」の場合には、「証明する書面」として、主催者による「証明書」が提出されて来ることが多い。
 
 
☆10.37A
 
特許法第30条第3項の「博覧会に出品する」場合の 「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要のある事実

 特許法第30条第3項の「博覧会」に出品することによって公知となった発明について、下記の事実が特許出願の日から30日以内に提出された「証明する書面」によって明示されると共に証明される必要がある。
 1.博覧会名
 2.主催者名
 3.開設日
 4.開設場所
 5.出品者名(→10.33)
 6.出品されたものの内容
(注)
 「開設」については「主催又は共催」に限ることとし、「後援」は「開設」とは認め  ない。
(説明)
 1.便覧10.34Aの(説明)参照
 2.特許庁長官が指定した博覧会であることについては、「特許庁における顕著な事実」であるから証明を要しない。
  (注)
    「博覧会に出品」した場合には、「証明する書面」として、主催者による「証明書」が提出されて来ることが多い。
 
 
特許を受ける権利を有する者がした複数回にわたる公開が互いに 密接不可分の関係にある場合の特許法第30条第4項の手続について

特許を受ける権利を有する者が、特許出願前に出願に係る発明を複数回にわたって公開した場合であって、第2回以降の公開が最先の公開と互いに密接不可分の関係にあるとき(→42.45)は、特許法第30条第4項に規定された手続において、第2回以降の公開に関する「証明する書面」の提出は省略されていても差し支えないこととする。
 
 
☆10.40A
学術団体の指定を受けるための手続  詳細

 特許法第30条第1項(発明の新規性の喪失の例外)の規定による指定を受けようとする学術団体は、様式第24により作成した申請書を特許庁長官に提出しないければならない(特施規19条1項)。
 この申請書には、当該学術団体の定款又はこれに準ずるもの及びその団体が発刊している機関誌紙を添付しなければならない(特施規19条2項)
 
 
☆10.41A
指定された学術団体

 特許庁長官は、特許法第30条第1項の規定による指定をしたときには、その旨を当該学術団体に通知し、かつ、特許公報に掲載しなければならない(特施規21条1項)。
 
 
☆10.42A
特許庁長官が指定する学術団体の指定の効力の発生の日

 特許庁長官が指定する学術団体の指定の効力の発生の日は、指定のあった日とする。
 
 
☆10.44A
指定された博覧会

 特許庁長官は、特許法第30条第3項の規定による日本国内において政府及び地方公共団体以外の者が開設する博覧会の指定をしたときは、その旨を当該博覧会を開設する者に通知し、かつ、特許公報に掲載しなければならない(特施規22条の4)。
 
 
特許法第30条第1項の規定の適用を受けるための刊行物等に発表された発明の 発表者氏名と、特許出願の発明者氏名とが、一部一致していない場合の取扱い

 特許法第30条第1項の規定の適用を受けるための刊行物等に発表された発明の発表者氏名と、特許出願の発明者氏名とが、一部一致していない場合であっても、その刊行物等に発表された発明は、特許法第30条第1項の規定の適用を受けるものとする。
 ただし、発明者と発表者との関係について、納得できる発明をした書面を提出させるものとする。
 (例1)
   刊行物等における発表者氏名        AとB
   特許出願の発明者氏名           B
 (例2)
   刊行物等における発表者氏名        A
   特許出願の発明者氏名           AとB
 (説明)
    刊行物等に発表された発明の発表者のうちには、発明者でなく単なる発明協力者も含まれている場合が考えられ、また逆に、共同発明の場合に、発表者は発明者の一部である場合も考えられるので、上記のように取り扱うものとする。
    (注)
      ここにいう刊行物等とは、特許法第30条第1項の、特許出願前特許を受ける権利を有する者が発表した刊行物、及び特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において発表された文書をいう。
 
 
特許出願に係る発明が、刊行物に発表した発明であることを証明する書面

 特許を受ける権利を有する者が、刊行物に発表し、特許法第29条第1項第3号に該当するに至った発明について、その者が特許出願をし特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとするときは、特許出願に係る発明が、刊行物に発表した発明であることを証明する書面を提出しなければならない。
 上記の書面は、刊行物又はその刊行物の複写でよいが、その刊行物が外国語で記載されているときは、その刊行物の訳文を添付しなければならない。
 上記の刊行物の複写及び訳文は、その刊行物の名称、発行の時期、発表者(発明者)の氏名、発行所及び発明の内容を示す部分についてのものでよい。
 
 
☆42.05A
学会誌などの原稿受付とその原稿の公知性

 この場合、その原稿の記載内容が公表されるまでは、単に原稿受付日の証明だけでは、その内容が公然知られたものと認めないこととする。
(説明)
  一般に原稿は、受け付けられても不特定人が見られる状態に置かれるものではないから、いまだその内容が公然知られたものということはできないと解するのが妥当と思われるので、本文のように取り扱うこととする。
 
 
 
複数回の公開行為について、特許法第30条第1項又は第3項の規定の 適用を受けるための手続が適法になされた場合の取り扱い

1.特許を受ける権利を有する者が、特許出願前に出願に係る発明を複数回に亘って公開した場合において、それらの公開行為について、特許法第30条第1項又は第3項の適用を受けるための手続が適法になされた場合には、その適用をすべて認める。
 なお、「該当するに至った日から六月以内にその者が特許出願したとき」における六月以内の起算日である該当するに至った日は、最先の公開の日である。
参考:昭56−審判第2240号 審決
(注1)経緯
 拒絶査定不服審判(昭56−審判第2240号)の審決において、特許法第30条の適用について、「特許法第30条第1項は、刊行物への発表等の公開行為によって公知になった発明を救済するための例外を規定し、その行為があっても発明の新規性を維持せしめることを法律上擬制したものであり、・・・出願発明について、その出願前に複数の公開行為がなされ、これらについての特許法第30条適用の申出手続が適法である場合は、その適用をすべて容認することが立法趣旨からみても妥当であると認められ、・・・」との判断が示された(なお、その審決は確定している)ので、上記1のとおり取り扱うこととする。
(注2)
 一の公開(上記1の複数回の公開のいずれか一の公開)と密接不可分の関係にある他の公開は一の公開として取り扱うこととする。
 その際、他の公開についての特許法第30条第4項に規定された手続において、他の公開に関する「証明する書面」の提出は省略可能である(→10.38)
 ここで言う「一の公開と密接不可分の関係にある他の公開」とは、他の公開が公開者の意思によっては律し切れないものであって、一の公開と互いに密接不可分の関係にあるような他の公開をいい、たとえば、「数日に亘らざるを得ない試験、試験とその当日配布される説明書、刊行物の初版と再版、予稿集と学会発表、学会発表とその講演集、同一学会の巡回的講演、博覧会出品と出品物に関するカタログ」等がそれに当たる。
 
2.特許法第30条第1項又は第3項の「該当するに至った日」と特許出願の間に第三者が「該当するに至った発明」と同一の発明を公開した場合において、その公開が「該当するに至った発明」の公開に基づく場合(注)には、その特許出願に係る発明は第三者の公開によって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至らなかったものとする。
(注)
「第三者の公開が該当するに至った発明の公開に基づく場合」とは、例えば、「第三者による刊行物への転載」のような場合をいう。
(説明)
 特許出願人(発明者)自身の意思によっては律し切れない公開があった場合に特許法第30条第1項又は第3項の適用が受けられないものとすると、同条の立法の趣旨が生かされないこととなってしまうので、上記のように取り扱うものとする。
 
 


[更新日 1999.6.11]