よくある質問

5.特許法第30条Q&A
 
 特許法第30条関係の事例のいくつかを、Q&Aの形式で紹介します。Aとして(可)とあるのは、各々の項目(例、”特許を受ける権利を有する者”)の要件を満たしている場合をいい、不可とは、それを満たしていない場合をいいます。
 
(1)”特許を受ける権利を有する者”
 
Q1発明者X、刊行物発表者Y、出願人Y、Zであって、「Y、Zが特許を受ける権利を承継し、その後Yが刊行物に発表した」旨の証明書が出願と同時になされている。
A(可)
公開をした者が特許を受ける権利を有する者の一人であることが証明されている。


Q2特許を受ける権利を有する者ではないある公共機関が公開試験を行った。
A(不可)
特許を受ける権利を有する者が公開していない(審査便覧10.33A)


Q3発明者X、博覧会出品者Y、出願人Zであって、博覧会名、主催者名、開催日、開設場所、出品者名、出品されたものの内容について「証明する書面」が提出されていたが、「Yが出品時に特許を受ける権利を有するものであった」旨の証明書の提出は出願日から30日経過後である。
A(不可)
発明者、公開者、出願人のすべてが相違する場合は、公開時において公開者が現に「特許を受ける権利」の正当な承継人であることが「証明する書面」によって、出願日から30日以内に証明されていなければならない(審査便覧10.33A参照)


Q4発明者X、Y、刊行物発表者Y、Z、出願人Wであって刊行物名、巻数、号数、発行年月日、発行所、当該頁、著者名(発表者名)、発表された発明の内容について「証明する書面」が提出されていましたが、「発明者と発表者との関係について納得出来る説明をした書面」の提出は、出願日から30日経過後である。
A(可)
審査便覧10.45A参照)
発明者と発表者とが一部相違する場合についての「納得できる説明をした書面」は「証明する書面」と同時に出願日から30日以内に提出することが望ましいが、その後であっても提出できる。


Q5X新聞の記者に説明(非公開)して、X新聞に掲載されたが、発表者名が掲載されておらず、発表者が「特許を受ける権利を有する者」であることが証明されていない。
A(不可)
このケースは、公開者が発明者又は出願人のいずれとも相違する場合と同様に取り扱い、発表者が「特許を受ける権利を有する者」であることが証明されていなければならない。



(2)特許法第30条第1項 “刊行物に発表し”

Q6刊行物、インターネット、学術団体等で発表した発明と、同一でない発明について、特許法第30条の申請をした
A
特許出願に係る発明が、発表された発明と同一でない発明でも、特許法第30条の適用を受けることができる。(平成12年1月以降の出願に対して適用)。


Q7PCT国際公開パンフレットによって刊行物発表をした。
A(不可)
特許文献による発表は「出願人が刊行物に発表した」場合に該当しない(昭和57年6月22日東高・昭和56年(行ケ)第22号)。


Q8(社)発明協会発行の公開技報に発表した。
A(可)
公開技報による発表は「出願人が刊行物に発表した」場合に該当する。


Q9指定学術団体が外国で開催する研究集会で文書をもって発表した。
A(可)
平成11年度改正法により、特許庁長官が指定する学術団体が外国で開催する研究集会において、特許を受ける権利を有する者が文書をもって発表した場合でも、特許法第30条の適用を受けられるようになった。
なお、外国で刊行物をもって発表した場合は、旧法においても特許法第30条の適用は可能であった。


Q10X新聞社に原稿を渡し、X新聞に発表者名付で掲載された。
A(可)
新聞は刊行物であり、原稿を渡しこれに掲載されれば、刊行物に発表したものと認められる。


Q11X新聞の記者に説明(非公開)し、X新聞に発表者名付きで掲載された。
A(可)
記者に説明(非公開)して新聞に掲載することは、原稿を渡して新聞に掲載することに代えての簡便な発表方法と解される。


Q12X新聞の記者に説明(非公開)してX新聞に掲載されたが、発表者名Yが掲載されてなく、新聞記事の複写物とともに、「Yの説明(非公開)に基づき、記事を作成した」旨の証明書が提出された。
A(可)
特許法第30条第1項にいう「刊行物に発表」は、発明者名をも発表することを要するとは解されない(東高民6判昭36(行ナ)183号。判例タイムズ225号P.113参照)。



(3)特許法第30条第1項 “試験を行い” 

Q13公開の場で利用者の反応を見るための試験を行った。
A(不可)
特許法第30条第1項にいう「試験」とは、発明の技術的効果を確認するための試験のみと解するべきであって、このような試験は特許法第30条に規定する「試験」には該当しない。



(4)特許法第30条第1項“特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表し” 

Q14指定学術団体の研究集会において掛図、スライド、OHPをもって発表した。
A(可)
スライド、掛図、OHPは文書の一種とみる。この場合、文書に表現されている発明の内容を明示するものとして、これらの複写物を「証明する書面」として提出すればよい。


Q15指定学術団体の「ポスターセッション」(応用物理学会等で行われており、ポスター形式のパネルを使用して研究発表する)で発表した。
A(可)
ポスターは掛図に類するものと考えられるので、文書の一部とみる。ポスターの複写物を「証明する書面」の一部として提出すればよい。


Q16指定学術団体の研究集会において手持ち原稿に基づいて口頭により発表したが、その文書は配布しなかった。
A(可)
文書に基づいた発表であれば、必ずしも文書を配布する必要はない。ただし、文書の複写物を「証明する書面」の一部として提出する必要がある。


Q17指定学術団体の研究集会では発表せず、その付設展示会において、現物とその操作マニュアルとを発表した。
A(不可)
一般的には付設展示会は研究集会そのものとは認められない。


Q18指定学術団体が後援している研究集会において文書をもって発表した。
A(不可)
指定学術団体による「後援」は指定学術団体の「開催」にはあたらない。


Q19試験を行った場所、指定学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表した場所が外国であって、これらの試験、発表の内容が報道されたり、講演されたりすることにより国内で公知になるに至った。
A(可)
試験、研究集会は国内に限るという明文の規定がないので、外国で行われたものであっても特許法第30条の適用を受けられる。



(5)特許法第30条第1項 “6月以内にその者が特許出願をしたときは”

Q20米国において、刊行物に発表後6ヶ月以内にした米国特許出願を基礎とする優先権主張を伴い発表後6ヶ月経過後日本へ出願した。
A(不可)
発表後6ヶ月以内に日本へ出願されない限り特許法第30条適用を受けられない。



(6)特許法第30条第2項 “意に反して”

Q21意に反して公知になりましたが、この事実を証明する書面を、出願から30日経過後に提出した。
A(可)
特許法第30条第2項に関する「証明する書面」の提出期限については、規定されていませんので30日経過後でも提出は認められる。



(7)特許法第30条第4項 “証明する書面”

Q22指定学術団体を含む複数の団体が共催した研究集会で文書をもって発表して公知になったことを証明する書面として一つの指定学術団体が証明したものが提出された。
A(可)
指定を受けた学術団体(その支部をも含む)の内の一つが証明すれば特許法第30条の適用は認められる。


Q23指定学術団体の研究集会において文書をもって発表したことを「証明する書面」を発表者本人が作成した。
A(不可)
発表者本人が作成した「証明する書面」のみでは特許法第30条の適用は認められない。


Q24指定学術団体の研究集会において文書をもって発表したことを「証明する書面」として代理人が申請したものを提出した。
A(可)
申請者のいかんにかかわらず「証明する書面」を提出すればよい。


Q25証明する書面が、外国語で記載されており、その翻訳文を添付しなかった。
A(不可)
翻訳文を添付する必要がある(特施規2条2項、審査便覧10.46A)。


Q26刊行物発表したことを「証明する書面」として、その刊行物の複写を提出した。
A(可)
「証明する書面」は、刊行物の名称、発行の時期、発表者(発明者)の氏名、発行所及び発明の内容を示す部分が含まれている刊行物の複写でもよい(審査便覧10.46A)。


Q27指定学術団体の研究集会において文書をもって発表したことを「証明する書面」として、指定学術団体による証明書の代わりに予稿集を用いた。
A(可)
昭和49年審判第1835審決(昭和54年4月11日)参照。


Q28指定学術団体の研究集会において文書をもって発表して公知になったことを「証明する書面」を複写物で提出した。
A(条件付きで可)
「証明する書面」の原本を提出する必要がある。


Q29指定学術団体の研究集会において文書をもって発表したことに基づいて複数の出願をする際、「証明する書面」の原本を一の出願の願書にのみ添付し、他の出願に対しては、それを援用した。
A(条件付き可)
「証明する書面」の援用は認められないので、「証明する書面」の原本を提出する必要がある。


(8)複数回公開
Q30刊行物Xに発表したが、本人に知らされないで出願日前にこの内容が第三者によって刊行物Yに転載されて公知となった。
A(可)
審査便覧42.45Aの2を参照。


Q31商品カタログの発行後に商品を発表し、その後、出願した。
A(不可)
複数回の公開がそれぞれ特許法第30条適用可能でなければならず(審査便覧42.45Aの1)、単なる商品の発表は、特許法第30条の適用を受けられない。


Q32指定学術団体の研究集会において、口頭による発表(文書に基づく口頭発表ではない)をし、その後その内容が講演集に発表された(講演集への発表を中止することが発明者の意思で律し切れない場合)。
A(不可)
最先の口頭による発表は、「文書をもって発表」には該当しないので、特許法第30条第1項の規定の適用を受けられない。


Q33X新聞の記者に説明し(非公開)、新聞Xに「指定学術団体の研究集会で・・・・・という内容の技術を発表する」旨の記事が掲載された後、指定学術団体の研究集会で文書をもって発表した。
A(可)
ただし、新聞発表とその後の学会発表とは密接不可分の関係にないため、それぞれの「証明する書面」を提出することが必要である。(審査便覧42.45A参照)


Q34X新聞,Y新聞の各記者と共同会見(公開)した後、新聞X、新聞Yに掲載された。
A(不可)
各記者の共同会見(公開)は特許法第30条第1項又は第3項でいう公開行為に該当しない。


Q35X雑誌社、Y雑誌社に別々に原稿を渡した後、雑誌X、雑誌Yに掲載された。
A(可)
ただし、雑誌Xと雑誌Yに密接不可分の関係があると認められないためそれぞれの「証明する書面」を提出することが必要である。


Q36政府が開設する博覧会の出品物に関するカタログを頒布した後、その博覧会に出品した。
A(可)
博覧会とその博覧会のためのカタログとは密接不可分の関係があると認められるため、二回目の公開に対する「証明する書面」の省略が可能(審査便覧42.45の110.38A参照)。



(9)その他

Q37特許法第30条適用を受けているもとの出願に基づいて、分割(変更)した出願について、特許法第30条適用を受けるための手続をしなかった。
A(不可)
所定手続をしなければ特許法第30条の適用は認めない(特許法第30条第4項、特許法第44条第2項、特施則31条2項)。


Q38卒業論文を口頭で論文発表会において発表した。
A(不可)
「指定学術団体の研究集会における発表」にも「刊行物発表」にも該当しない。


Q39発明者がテレビジョン放送を通じて発表した。
A(不可)
この場合は特許法第30条に該当しない。


Q40出願時に特許法第30条の規定の適用を申請しなかった出願に係る分割出願、変更出願の出願と同時に特許法第30条の規定の適用を申請した。分割、変更が発表から6ヶ月以内の時はどうか。
A(不可)
分割、変更に係る新たな出願についての新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続についての基準時は、分割、変更の日時である(特許法第44条第2項ただし書き)。特許法第44条第2項ただし書きの規定が設けられたのは、もとの出願の日時を基準とするとその主張ができなくなり、また証明書の提出期間もすでに経過しており、分割、変更による新たな出願についてその利益を享受できなくなる不都合があるためである。しかし、この規定はもとの出願が新規性喪失の例外規定の適用を受けている場合に、その分割、変更に係る新たな出願についてもその利益を享受できるようにしようとするものであるから、もとの出願がその利益を受けていないときは、特許法第44条第2項ただし書きの規定は適用されない。
したがって、この場合、分割、変更の時期にかかわらず特許法第30条の規定の適用を受けることができない。
 


[更新日 2000.1.7]