欧州特許付与に関する条約

2000年外交会議における改正
前文
締約国は,
発明の保護に関して欧州諸国間の協力を強化することを希望し,
特許を付与するための単一の手続及びその手続により付与される特許を規制する若干の標準規則を設けることにより,上記の保護がこれら諸国にて得られることを希望し,
上記の目的のために,欧州特許機構を創設するものであり,かつ1883年3月20日にパリで署名され,最後に1967年7月14日に改正された産業財産の保護に関する条約第19条にいう特別の取決め,及び1970年6月19日の特許協力条約第45条(1)にいう広域特許協定となる条約を締結することを希望し,
以下の規定に同意した。

 

第I部 一般及び組織に関する規定

第I章 一般規定

第1条 特許の付与に関する欧州法
 発明の特許の付与について,締約国間に共通の法体系がここに創設される。
 
第2条 欧州特許
(1) 本条約により付与される特許は,欧州特許と呼ばれる。
(2) 欧州特許は,本条約に別段の定めがある場合を除くほか,その特許が与えられるそれぞれの締約国において,当該国により付与された国内特許と同一の効力を有するものとし,かつ,同一の条件に服する。
 
第3条 地域的効力
 欧州特許の付与は,1又は2以上の締約国について求めることができる。
 
第4条 欧州特許機構
(1) 欧州特許機構(以下「機構」という。)は,本条約により創設される。機構は,管理上及び財政上の自治権を有する。
(2) 当該機構の機関は,次のとおりである。
(a)
欧州特許庁
(b)
管理理事会
(3) 機構の任務は,欧州特許を付与することにある。この任務は,管理理事会によって監督される欧州特許庁が遂行する。
 
第4a条 締約国の大臣による会議
 特許に関する事項について責任を有する各締約国の大臣による会議は,機構及び欧州特許制度に関する諸問題を討議するために,少なくとも5年ごとに会合する。
 

第II章 欧州特許機構

第5条 法的地位
(1) 機構は,法人格を有する。
(2) 各締約国において,機構は,当該締約国の国内法の下で法人に対して与えられる,最も広範な法的資格を有する。機構は,特に動産及び不動産を取得し,又はその処分をすることができ,かつ,法的手続の当事者となることができる。
(3) 欧州特許庁の長官は,機構を代表する。
 
第6条 所在地
(1) 機構はミュンヘンに所在地を置く。
(2) 欧州特許庁は,ミュンヘンに設置され,欧州特許庁は,ヘーグにその支庁を定める。
 
第7条 欧州特許庁支局
 管理理事会の決定により,欧州特許庁の支局は,必要な場合は,情報及び連絡のために,締約国内及び産業財産の分野における政府間機関内に,当該締約国又は当該政府間機関の承認を条件として,設置することができる。
 
第8条 特権及び免責
 本条約に付属する特権及び免責に関する議定書には,機構,管理理事会の構成員,欧州特許庁の職員及び機構の業務に参加するものとして当該議定書に特定されたその他の者が,その職務の遂行に必要な特権及び免責を各締約国の領土において享受する諸条件を明示する。
 
第9条 責任
(1) 機構の契約上の責任は,当該契約に適用される法律により定められる。
(2) 機構又は欧州特許庁の職員がその職務の遂行中に与えた損害に関する機構の非契約上の責任は,ドイツ連邦共和国の法律の規定により定められる。損害がヘーグの支庁,又は支局又はこれらに属する職員によりもたらされた場合は,その支庁又は支局のある締約国の法律の規定が適用される。
(3) 機構に対する欧州特許庁の職員の個人的責任は,服務規定又は雇用条件に定められる。
(4) (1)及び(2)の規定に基づく紛争を解決するために管轄権を有する裁判所は,次のとおりとする。
(a)
(1)の規定に基づく紛争に関しては,ドイツ連邦共和国において管轄権を有する裁判所。ただし,当事者間で締結された契約が他の締約国の裁判所を指定する場合は,この限りでない。
(b)
(2)の規定に基づく紛争に関しては,ドイツ連邦共和国において管轄権を有する裁判所又は当該支庁若しくは支局のある締約国において管轄権を有する裁判所。
 

第III章 欧州特許庁

第10条 指揮
(1) 欧州特許庁は,欧州特許庁の活動に関して管理理事会に対して責任を負う長官により指揮される。
(2) この目的のために,長官は,特に次の職務及び権限を有する。
(a)
長官は,欧州特許庁の機能を保障するため,内部管理通達の採択及び公衆のために手引書の発行を含むすべての必要な処置をとる。
(b)
この点に関して本条約に定めのない限り,長官は,ミュンヘンの欧州特許庁及びヘーグの支庁においてそれぞれ処理されるべき業務を定める。
(c)
長官は,本条約改正の提案並びに管理理事会の管轄に属する一般的規則又は決定の提案を管理理事会に対し提出することができる。
(d)
長官は,予算及び補正予算又は追加予算を作成し及び履行する。
(e)
長官は,毎年運営報告書を管理理事会に提出する。
(f)
長官は,職員に対し監督上の権限を行使する。
(g)
 第11条の規定に従い,長官は,職員を任命し及び昇進させる。
(h)
長官は,第11条に規定する者以外の職員に対し懲戒権を行使し,又第11条(2)及び(3)に規定する職員に対し,管理理事会に懲戒処分を提案することができる。
(i)
長官は,自己の職務及び権限を委任することができる。
(3) 長官は,数人の副長官によって補佐される。長官が不在又はその職務執行不能の場合は,副長官の1人は,管理理事会の定める手続に従い,長官を代行する。
 
第11条 上級職員の任命
(1) 欧州特許庁の長官は管理理事会により任命される。
(2) 副長官は,長官の意見を求めた後,管理理事会により任命される。
(3) 審判部及び拡大審判部の構成員は,審判長を含み,欧州特許庁長官の提案に基づいて,管理理事会により任命される。これらの構成員は,欧州特許庁長官の意見を求めた後,管理理事会により再任されることができる。
(4) 管理理事会は,(1)から(3)までに規定する職員に対して懲戒権を行使する。
(5) 管理理事会は,欧州特許庁長官と協議の上,締約国の国内裁判所又は準司法機関の法的資格を有する者を拡大審判部の構成員として任命することもでき,これらの者は,各国における司法活動も継続して行うことができる。これらの者は,3年の任期で任命され,再任されることができる。
 
第12条 職務上の義務
 欧州特許庁の職員は,その雇用が終了した後においても,その性質上職務秘密である情報を開示し又は利用しない義務を負う。
 
第13条 機構と欧州特許庁職員との間の紛争
(1) 欧州特許庁の職員及び元職員であった者又はこれらの者の承継人は,欧州特許機構と紛争がある場合は,国際労働機関の行政裁判所に対し,この裁判所規則に従い,常勤職員のための勤務規則若しくは年金計画規則に定める条件,又はその他の職員の雇用条件に基づく条件の範囲内で,当該条件に従って,訴を提起することができる。
(2) 上訴は,当事者が,場合に応じ,勤務規則,年金計画規則又は雇用条件に基づき利用することのできるその他の不服申立手段を行使し尽くした場合においてのみ,認められる。
 
第14条 欧州特許庁,欧州特許出願及びその他の書類の言語
(1) 欧州特許庁の公用語は,英語,フランス語及びドイツ語とする。
(2) 欧州特許出願は,これらの公用語のうちの何れか1つの言語で提出するものとし,又は,他の言語でされた場合は,施行規則に従って何れか1つの公用語に翻訳する。欧州特許庁における手続を通して,その翻訳文は,出願時の原文に一致させることができる。要求されている翻訳文が所定の期間内に提出されなかった場合は,出願は取り下げられたものとみなす。
(3) 施行規則に別段の定めがある場合を除くほか,欧州特許出願がされたときの欧州特許庁の公用語又は欧州特許出願が翻訳されたときの欧州特許庁の公用語は,欧州特許庁におけるすべての手続において手続語として用いる。
(4) 英語,フランス語又はドイツ語以外の言語を公用語とする締約国に住所又は営業の本拠地を有する自然人又は法人,並びに外国に居住する当該締約国の国民は,当該締約国の公用語で,期間内に提出しなければならない書類を提出することができる。ただし,施行規則に従い欧州特許庁の公用語による翻訳文を提出する。欧州特許出願を構成する書類以外の書類が規定されている言語で提出されなかった場合又は要求された翻訳文が期間内に提出されなかった場合は,当該書類は,提出されなかったものとみなす。
(5) 欧州特許出願は,手続言語で公開する。
(6) 欧州特許の明細書は,手続言語で公開するものとし,この明細書は,欧州特許庁の他の2つの公用語によるクレームの翻訳文を含む。
(7) 次のものは,欧州特許庁の3の公用語で発行する。
(a)
欧州特許公報
(b)
欧州特許庁公報
(8) 欧州特許登録簿の登録は,欧州特許庁の3の公用語で行う。疑義のある場合は,手続語による登録を真正なものとする。
 
第15条 手続を担当する部課
 本条約に規定する手続を行うために,欧州特許庁内に次の部課を設置する。
(a)
受理課
(b)
調査部
(c)
審査部
(d)
異議部
(e)
法規部
(f)
審判部
(g)
拡大審判部
 
第16条 受理課
 受理課は,出願時の審査及び欧州特許出願の方式要件に関する審査について責任を有する。
 
第17条 調査部
 調査部は,欧州調査報告を作成する責任を有する。
 
第18条 審査部
(1) 審査部は,欧州特許出願を審査する責任を有する。
(2) 各審査部は,3名の技術審査官によって構成される。ただし,決定が確定する前の欧州特許出願審査は,原則として,その審査部の1名の審査官に委任される。口頭審理は,審査部自体で行われる。審査部が決定の性質上必要であると認める場合は,審査部は,1名の法律審査官を加えて拡大される。可否が同数の場合は,審査長の票を以って決定する。
 
第19条 異議部
(1) 異議部は,欧州特許出願のすべての欧州特許に対する異議申立を審査する責任を有する。
(2) 異議部は,3名の技術審査官で構成され,その中で少なくとも2名は異議が申し立てられた欧州特許の付与手続に関与した者であってはならない。欧州特許付与手続に関与した審査官は,審査長であってはならない。異議申立に対する最終決定の前は,異議部は,その構成員の1名に異議申立の審査を委任することができる。口頭審理は,異議部自体で行う。異議部が決定の性質上必要であると認める場合,異議部は,当該特許の付与手続に関与しなかった法律審査官1名を加えて拡大する。可否が同数の場合は,審査長の票を以って決定する。
 
第20条 法規部
(1) 法規部は,欧州特許の登録簿への登録並びに職業代理人名簿への登録及びその抹消に関する決定につき責任を有する。
(2) 法規部の決定は,1名の法律構成員によってされる。
 
第21条 審判部
(1) 審判部は,受理課,審査部,異議部及び法規部の決定に対する審判の審理をする責任を有する。
(2) 受理課又は法規部の決定に対する審判に関しては,審判部は,3名の法律構成員で構成される。
(3) 審査部の決定に対する審判に関しては,審判部は,次の者で構成される。
(a)
決定が欧州特許出願の拒絶又は欧州特許の付与,縮減若しくは取消に関するもので,かつ,4名未満の構成員からなる審査部によってされた場合は,2名の技術構成員及び1名の法律構成員
(b)
決定が4名の構成員からなる審査部によってされた場合又は審判部が審判の性質上必要であると認める場合は,3名の技術構成員及び2名の法律構成員
(c)
その他のすべての場合は,3名の法律構成員
(4) 異議部の決定に対する審判に関しては,審判部は次の者で構成される。
(a)
決定が3名の構成員からなる異議部によってされた場合は,2名の技術構成員及び1名の法律構成員
(b)
決定が4名の構成員からなる異議部によってされた場合又は審判部が審判の性質上必要であると認める場合は,3名の技術構成員及び2名の法律構成員
 
第22条 拡大審判部
(1) 拡大審判部は,次の事項について責任を有する。
(a)
審判部によって付託された法律の問題点を解決すること
(b)
 第112条の規定に基づく欧州特許庁長官により付託された法律の問題点に関して意見を述べること
(c)
 第112a条に基づく審判部の決定の検討のための申請に関して決定すること
(2) (1)(a)及び(b)の規定に基づく手続については,拡大審判部は,5名の法律構成員及び2名の技術構成員で構成される。(1)(c)の規定に基づく手続については,拡大審判部は,施行規則に定める3名又は5名で構成される。すべての手続において法律構成員が審判長となる。
 
第23条 審判部構成員の独立
(1) 拡大審判部及び審判部の構成員は,5年の任期で任命され,この期間中は罷免されない。ただし,罷免についての重大な理由があり,かつ,管理理事会が拡大審判部の提案に基づき罷免すべき決定をした場合を除く。欧州特許庁の常勤職員に関する職務規則に従い辞職し又は退職する場合は,第1文の規定に拘らず審判部の構成員の職務期間は終了する。
(2) 審判部の構成員は,受理課,審査部,異議部又は法規部の構成員であってはならない。
(3) 決定に関して審判部の構成員は,如何なる指令にも拘束されず,本条約の規定にのみ従う。
(4) 審判部及び拡大審判部の手続規則は,施行規則の規定に従って定められる。手続規則は,管理理事会の承認に服する。
 
第24条 除斥及び忌避
(1) 審判部又は拡大審判部の構成員は,事件について個人的な利害関係を有する場合,当事者の一方の代理人として前審に関与した場合,又は審判が請求された決定に関与した場合には,如何なる審判にも加わることができない。
(2) (1)に規定する理由の1で,又はその他の理由で審判部又は拡大審判部の構成員が審判に加わるべきでないと認める場合は,構成員は,審判部にその旨を通知する。
(3) (1)に規定する理由の1に基づき又は不公正を疑われる場合は,審判部又は拡大審判部の構成員は,如何なる当事者によっても忌避することができる。忌避は,忌避の理由を知りながら当事者が手続に加わった場合は,認められない。忌避は,構成員の国籍を理由に申立をすることができない。
(4) 審判部及び拡大審判部は,関係する構成員の関与なしに,(2)及び(3)に規定する場合にとるべき措置を決定する。この決定については,忌避された構成員は,代理構成員に代えられる。
 
第25条 技術的意見
 侵害訴訟又は取消訴訟を審理する国内管轄裁判所の請求に基づき,欧州特許庁は,適当な手数料の支払があれば,訴訟の対象である欧州特許に関する技術的意見を述べる義務を負う。審査部は,その技術的意見を述べる責任を有する。
 

第IV章 管理理事会

第26条 構成
(1) 管理理事会は,締約国の代表及び代表代理で構成する。各締約国は,管理理事会に対し1人の代表及び1人の代表代理を選任する資格を有する。
(2) 管理理事会の構成員は,その手続規則の規定に従って,顧問又は専門家の補佐を受けることができる。
 
第27条 会長職
(1) 管理理事会は,締約国の代表及び代表代理の中から,1人の会長及び1人の副会長を選任する。副会長は,会長がその職務の執行を妨げられる場合は,職権により会長に代わる。
(2) 会長及び副会長の任期は3年とする。この任期は,更新することができる。
 
第28条 委員会
(1) 少なくとも締約国が8国ある場合は,管理理事会は,その構成国のうち5国で構成される委員会を設置することができる。
(2) 管理理事会の会長及び副会長は,職権により委員会の構成員となる。他の3人の構成員は,管理理事会によって選出される。
(3) 管理理事会によって選出された構成員の任期は3年とする。この任期は,更新することができない。
(4) 委員会は,手続規則に従って管理理事会により与えられる任務を遂行する。
 
第29条 会議
(1) 管理理事会の会議は,その会長により招集される。
(2) 欧州特許庁長官は,管理理事会の審議に加わる。
(3) 管理理事会は,毎年1回通常会議を開く。更に,管理理事会は,会長の発意又は締約国の3分の1の要請により会合する。
(4) 管理理事会の審議は,議事日程に基づくものとし,その手続規則に従って開かれる。
(5) 議事日程予定には,手続規則に従い締約国が請求した問題をすべて含める。
 
第30条 オブザーバーの出席
(1) 世界知的財産機関は,欧州特許機構と世界知的財産機関との間に締結された合意の定めに従い,管理理事会の会議に代表を出す。
(2) 特許の分野の国際的手続実務を担当し,かつ,機構が合意を締結したその他の政府間機関は,当該合意に含まれる規定に従い,管理理事会の会議に代表を出す。
(3) 管理理事会は,機構に関心のある活動を遂行するその他の政府間機関及び国際的な非政府機関に対し,相互に関心のある事項の討議の間その会議に代表を出すよう求めることができる。
 
第31条 管理理事会の言語
(1) 管理理事会の審議において使用する言語は,英語,フランス語及びドイツ語とする。
(2) 管理理事会に提出される文書及びその審議の議事録は,(1)にいう3の言語で作成する。
 
第32条 職員,敷地建物及び備品
 欧州特許庁は,管理理事会及びそれにより設立された機関に,その職務を遂行するために必要な職員,敷地建物及び備品を提供する。
 
第33条 若干の事例における管理理事会の権限
(1) 管理理事会は,次の規定を改正する権限を有する。
(a)
本条約に規定する期間
(b)
特許に関する国際条約又は特許に関する欧州共同体の法令に整合させることを目的とした本条約の第II部から第VIII部まで及び第X部
(c)
実施規則
(2) 管理理事会は,本条約に従い,次の規定を採択し又は改正する権限を有する。
(a)
財務規則
(b)
欧州特許庁の常勤の職員の勤務規則及びその他の職員の雇用条件,常勤職員及びその他の職員の給与の等級及び補充的な給付の種類とこれを与えるための規則
(c)
年金計画規則及び給与の増額に適合させるための既存の年金の相当な増額
(d)
手数料に関する規則
(e)
管理理事会の手続規則
(3) 第18条(2)の規定に拘らず,管理理事会は,経験に照らし,若干の範疇の事例において審査部が1人の技術審査官によって構成されるものと決定する権限を有する。その決定は,取り消すことができる。
(4) 管理理事会は,国,政府間機関及び当該機関との取決めに基づいて設立された資料収集機関と交渉し,かつ管理理事会の承認を得て,欧州特許機構に代わり取決めを締結する権限を欧州特許庁長官に授権することができる。
(5) 管理理事会は,次の事項に関しては(1)(b)に規定する決定をしてはならない。
−発効する前の国際条約に関して
−発効する前,又は,施行期間が規定されている場合は,当該期間の満了前の欧州共同体の法令に関して
 
第34条 投票権
(1) 管理理事会において投票する権利は,締約国に限られる。
(2) 各締約国は,第36条の規定が適用されることを条件として,1の票を有する。
 
第35条 投票規則
(1) 管理理事会は,(2)及び(3)にいう議決を除き,代表を出しかつ投票する締約国の単純多数により議決をする。
(2) 管理理事会が第7条第11条(1),第33条(1)(a)及び(c)並びに(2)から(4)まで,第39条(1),第40条(2)及び(4),第46条第134a条第149a条(2),第152条第153条(7),第166条及び第172条に基づき行使する権限を有する決定については,代表を出し投票する締約国の4分の3の多数が必要とされる。
(3) 管理理事会が第33条(1)(b)に基づき行使する権限を有する決定については,投票する締約国の満場一致が要求される。管理理事会は,すべての締約国が代表を出したときのみ当該決定をすることができる。第33条(1)(b)に基づく決定は,その決定の日から12月以内に,締約国が当該決定に拘束される意思を有していないことを宣言した場合は,効力を生じない。
(4) 棄権は,投票とみなさない。
 
第36条 投票の累積
(1) 手数料に関する規則の採択又は改正,並びに,締約国による分担金がそれにより増加する場合は,機構の予算及び追加若しくは補正予算の採択に関し,何れの締約国も,各締約国が1票を有する第1回の投票の後に,かつ当該投票の結果の如何を問わず,第2回の投票が直ちに行われ,この投票においては(2)の規定に従い締約国に票が与えられるべき旨を要求することができる。決定は,この第2回の投票の結果に基づいて,定められる。
(2) 各締約国が第2回の投票において有すべき票数は,次のとおり計算する。
(a)
 第40条(3)及び(4)の規定に従い,特別財政分担金の割合に関して各締約国について得られる百分率に締約国の数を乗じ,次に5で割る。
(b)
この方法で得た票数は直ぐ上位の整数まで切り上げる。
(c)
追加の5票がこの数に加えられる。
(d)
ただし,如何なる締約国も,30票を超える票を有することはできない。
 

第V章 財務規定

第37条 予算の財源
 機構の予算は,次のものを財源とする。
(a)
機構の固有財源
(b)
締約国において徴収される欧州特許の更新手数料に関してこれらの締約国がする支払
(c)
必要な場合は,締約国による特別財政分担金
(d)
適当な場合は,第146条に規定する収入
(e)
適当な場合は,有形資産のみについて,土地又は建物を担保にした第三者からの借入金
(f)
適当な場合には,特定の事業に対する第三者の拠出金
 
第38条 機構の固有財源
 機構の財源は,次のものから成る。
(a)
手数料及びその他の収入源からのすべての収入と機構の積立金
(b)
適当な積立金を供することにより機構の年金計画を支援するために機構資産の特別分類として取り扱われる年金積立基金
 
第39条 欧州特許の更新手数料に関する締約国の支払
(1) 各締約国は,当該国において欧州特許について受領するそれぞれの更新手数料に関し,管理理事会が決定する当該手数料の一定比率に等しい金額を機構に支払う。この比率は,75パーセントを超えてはならず,かつ,すべての締約国について同一とする。ただし,上記比率が管理理事会の決定する均一の最低額より低い場合は,その締約国は,この最低額を機構に支払う。
(2) 各締約国は,管理理事会において締約国の支払額を決定するために必要と認める情報を機構に通知する。
(3) これらの支払のための支払期日は,管理理事会が決定する。
(4) 支払期日までに支払が全額送金されない場合,締約国は,未支払の残額について支払期日からの利息を支払う。
 
第40条 手数料及び支払の基準―特別財政分担金
(1) 第38条に規定する手数料の額及び第39条に規定する比率は,これより生じる収入が機構の予算と十分に均衡がとれるように決定する。
(2) ただし,機構が(1)に定める条件の下にその予算の均衡を保つことができない場合は,締約国は,当該会計年度につき管理理事会が決定する額の特別財政分担金を機構に送金する。
(3) これらの特別財政分担金は,本条約施行の年の前々年に提出された特許出願の数に基づいて各締約国につき決定し,かつ,次の方法によって算出する。
(a)
当該締約国に提出された特許出願の数に比例して2分の1
(b)
当該締約国に住所又は営業の本拠地を有する自然人又は法人により,他の締約国に提出された特許出願の2番目の最高数に比例して2分の1
ただし,提出された特許出願数が2万5千件を超える諸国の分担金の額は,一括して考慮され,かつ,当該国に提出された特許出願の総数に比例して,新たな割合が作成され,決定される。
(4) 如何なる締約国についても,その分担金の割合が(3)の規定に従って確定することができない場合は,管理理事会は,当該国の同意を得てその割合位置を決定する。
(5) 第39条(3)及び(4)の規定は,特別財政分担金に準用する。
(6) 特別財政分担金は,すべての締約国にとって同じ率の利息と共に払い戻す。払戻しは,予算でこの目的のための措置をとることが可能である限りにおいて,行う。このようにして定められた金額は上記(3)及び(4)に規定する基準に従い,締約国に配分される。
(7) 何れの会計年度中に送金された特別財政分担金も,それに続く会計年度中に送金された特別財政分担金又はその一部が払い戻される前に,全額を払い戻す。
 
第41条 前納金
(1) 欧州特許庁長官の要請に基づき,締約国は,管理理事会が定める額の限度内において,その支払及び分担金のために機構に前納金を支払う。このような前納金は,当該会計年度において支払時期の到来する額に比例して,締約国に割り当てる。
(2) 第39条(3)及び(4)の規定は,前納金に準用する。
 
第42条 予算
(1) 機構の予算は,均衡を保つものとする。この予算は,財政規則に規定されている一般的に認知された会計原則に従って,作成する。必要な場合は,補正予算又は追加予算を組むことができる。
(2) 予算は,財務規則に定める計算の単位で作成する。
 
第43条 支出の承認
(1) 予算に計上される支出は,反対の規定が財務規則に含まれる場合を除くほか,1会計年度の期間中承認される。
(2) 財務規則に定める条件に従い,会計年度の終りにおいて支出されなかった人件費以外の支出は,翌年の会計年度に繰り越すことができるが,翌年の会計年度の最終日を超えてはならない。
(3) 支出は,その種類及び目的に従い異なる項目の下に記載され,かつ,必要な限り,財務規則に従い細別される。
 
第44条 予見し難い経費の支出
(1) 機構の予算は,予見し難い経費の支出を含むことができる。
(2) 機構によるこの支出の使用は,管理理事会の事前の承認を条件とする。
 
第45条 会計年度
 会計年度は,1月1日に始まり12月31日に終了する。
 
第46条 予算の作成及び採択
(1) 欧州特許庁長官は,財務規則に定める日までに予算案を管理理事会に提出する。
(2) 予算及び如何なる補正予算又は追加予算も,管理理事会が採択する。
 
第47条 暫定予算
(1) 会計年度の初めに,予算が管理理事会により採択されなかった場合は,支出は,財務規則の定めるところにより,前会計年度の予算支出の12分の1まで,予算の項目又はその他の下位区分毎に月単位で実施することができる。ただし,このように欧州特許庁長官による実施が可能となる支出は,予算案に定める支出の12分の1を超えることができない。
(2) 管理理事会は,(1)に定めるその他の規定を遵守することを条件に,支出の12分の1を超える経費を承認することができる。
(3) 第37条(b)に規定する支払は,予算案が関係する年の前年について第39条の規定に基づき決定される条件の下に,暫定的に,継続して行う。
(4) 締約国は,暫定的に,及び第40条(3)及び(4)に定める割合に従い,上記(1)及び(2)の規定の実施を確保するために必要な特別財政分担金を毎月支払う。第39条(4)の規定は,この分担金に準用する。
 
第48条 予算の執行
(1) 欧州特許庁長官は,予算及び如何なる補正予算又は追加予算も,その責任において及び割り当てられた支出の範囲内で執行する。
(2) 予算の範囲内において,欧州特許庁長官は,財務規則に定める制限及び条件に従い,異なる項目又は下位項目の間で資金を移動することができる。
 
第49条 会計監査
(1) 機構の収支計算書及び貸借対照表は,更新又は延長可能な5年の任期で管理理事会により任命され,その独立性に全く疑いのない監査役が監査する。
(2) 証憑に基づき,及び必要な場合は,現場でなされる会計監査は,適法かつ正当な方法ですべての収入が受領されすべての支出がなされていること,かつ財務管理が健全であることを確認する。監査役は,各会計年度の終りに報告書を作成する。
(3) 欧州特許庁長官は,毎年,前会計年度の予算に関する計算書並びに機構の資産及び負債を明示した貸借対照表を,監査役の報告書と共に,管理理事会に提出する。
(4) 管理理事会は,監査役の報告書と共に年次計算書を承認し,かつ,欧州特許庁長官を予算の執行に関して免責する。
 
第50条 財務規則
 財務規則は,特に,次の事項について規定する。
(a)
予算の作成及び執行並びに計算書の提出及び監査に関する手続
(b)
 第37条に規定する支払金及び分担金並びに第41条に規定する前納金を締約国が機構の処分に提供する方法及び手続
(c)
承認及び会計担当職員の責任に関する規則並びにこれらの職員の監督に関する取決め
(d)
 第39条第40条及び第47条に規定する利息の率
(e)
 第146条の規定により支払うべき分担金の計算方法
(f)
管理理事会により設置される予算・財務委員会の構成及びそれに与えられる職務
(g)
予算及び年次財務計算書の基礎となっている一般的に認知された会計原則
 
第51条 手数料
(1) 欧州特許庁は,本条約に基づき遂行される職務又は手続について手数料を徴収することができる。
(2) 本条約が定めた手数料以外の支払期間は,施行規則で定める。
(3) 施行規則が手数料を支払うべきことを規定している場合は,施行規則は,その手数料が期間内に支払われないことによる結果についても規定する。
(4) 料金に関する規則は,特に,支払うべき手数料の額及び支払方法を定める。
 

第II部 実体特許法

第I章 特許性

第52条 特許することができる発明
(1) 欧州特許は,産業上利用することができ,新規であり,かつ,進歩性を有するすべての技術分野におけるあらゆる発明に対して付与される。
(2) 次のものは,特に,(1)にいう発明とはみなされない。
(a)
発見,科学の理論及び数学的方法
(b)
美的創造物
(c)
精神的な行為,遊戯又は事業活動の遂行に関する計画,法則又は方法,並びにコンピュータ・プログラム
(d)
情報の提示
(3) (2)の規定は,欧州特許出願又は欧州特許が同項に規定する対象又は行為それ自体に関係している範囲内においてのみ,当該対象又は行為の特許性を排除する。
 
第53条 特許性の例外
 欧州特許は,次のものについては,付与されない。
(a)
その商業的利用が公の秩序又は善良の風俗に反する虞のある発明。ただし,その利用が,一部又は全部の締約国において法律又は規則によって禁止されているという理由のみで公の秩序又は善良の風俗に反しているとはみなされない。
(b)
植物及び動物の品種又は植物又は動物の生産の本質的に生物学的な方法。ただし,この規定は,微生物学的方法又は微生物学的方法による生産物については,適用しない。
(c)
手術又は治療による人体又は動物の体の処置方法及び人体又は動物の体の診断方法
この規定は,これらの方法の何れかで使用するための生産物,特に物質又は組成物には適用しない。
 
第54条 新規性
(1) 発明は,それが技術水準の一部を構成しない場合は,新規であると認められる。
(2) 欧州特許出願の出願日の前に,書面若しくは口頭,使用又はその他のあらゆる方法によって公衆に利用可能になったすべてのものは技術水準を構成する。
(3) また,その出願の出願日が(2)にいう出願日の前であり,かつ,(2)にいう出願日又はその後に公開された欧州特許出願の出願時の内容も技術水準を構成するものとみなされる。
(4) (2)及び(3)の規定は,第53条(c)にいう方法において使用される物質又は組成物であって技術水準に含まれるものの特許性を排除するものではない。ただし,その方法におけるその使用が技術水準に含まれない場合に限る。
(5) (2)及び(3)の規定は,第53条(c)にいう方法において特に使用するための(4)にいう物質又は組成物の特許性も排除するものではない。ただし,その使用が技術水準に含まれない場合に限る。
 
第55条 新規性に影響を与えない開示
(1) 第54条の規定の適用については,発明の開示は,それが欧州特許出願前の6月以内に行われ,かつ,それが次のものに起因するか又は次のものの結果である場合は,考慮されない。
(a)
出願人又はその法律上の前権利者に対する明らかな濫用
(b)
出願人又はその法律上の前権利者が,1928年11月22日にパリで署名され,最後に1972年11月30日に改正された国際博覧会に関する条約にいう公の又は公に認められた国際博覧会に発明を展示したこと
(2) (1)(b)の場合については,(1)の規定は出願人が欧州特許出願の際に,発明がそのように展示されたことを陳述し,かつ施行規則に定める期間内に施行規則に定める条件に従ってこれを裏付ける証明書を提出した場合にのみ適用する。
 
第56条 進歩性
 発明は,それが技術水準を考慮した上で当該技術分野の専門家にとって自明でない場合は,進歩性を有するものと認める。第54条(3)にいう書類が技術水準に含まれる場合,そのような書類は,進歩性の有無を判断する際には,考慮されない。
 
第57条 産業上の利用性
 発明は,それが農業を含む産業の何れかの分野において生産し又は使用することができる場合は,産業上の利用可能性を有するものと認められる。
 

第II章 欧州特許出願をし欧州特許を取得する権利を有する者―発明者の掲載

第58条 欧州特許出願をする権利
 欧州特許出願は,すべての自然人若しくは法人,又は法人を規制する法律により法人と同等であるとされるすべての団体がすることができる。
 
第59条 複数出願人
 欧州特許出願は,また,共同出願人又は異なった締約国を指定する2以上の出願人が出願することができる。
 
第60条 欧州特許を受ける権利
(1) 欧州特許を受ける権利は,発明者又はその権利承継人に属する。発明者が従業者である場合は,欧州特許を受ける権利は,従業者が主に雇用されている国の法律に従って決定される。従業者が主に雇用されている国を決定することができない場合に,適用されるべき法律は,従業者が属している使用者の営業所のある国の法律とする。
(2) 2人以上の者が互いに独立して発明をした場合は,欧州特許を受ける権利は,最先の出願日を有する欧州特許出願をした者に属する。ただし,最先の出願が公開されている場合に限る。
(3) 欧州特許庁における手続について,出願人は,欧州特許を受ける権利を行使する権利を有するものとみなされる。
 
第61条 欧州特許を受ける権利を有さない者による欧州特許出願
(1) 最終的な決定によって,出願人以外の者が欧州特許の付与を受ける権利を有すると判断された場合は,その者は,施行規則に従って次のことをすることができる。
(a)
出願人に代わり欧州特許出願を自己の出願として手続を進めること
(b)
同じ発明について新たな欧州特許出願をすること,又は
(c)
欧州特許出願が拒絶されるべき旨の請求をすること
(2) 第76条(1)の規定は,(1)(b)に基づき出願された新たな欧州特許出願に準用する。
 
第62条 発明者掲載権
 発明者は,欧州特許出願人又は欧州特許権者に対し,欧州特許庁において発明者として記載される権利を有する。
 

第III章 欧州特許及び欧州特許出願の効力

第63条 欧州特許権の存続期間
(1) 欧州特許権の存続期間は,出願日から20年とする。
(2) (1)の規定は,
(a)
戦争状態又は当該締約国に影響を及ぼすその他類似の緊急事態を考慮して,
(b)
欧州特許の対象が生産物,又は生産物の製造方法,又は生産物の用途に関するものであり,それらが当該締約国の市場に提供される前に国内法令が要求する行政上の許諾手続を経なければならない場合に,
国内特許権に適用される条件と同一の条件の下で,欧州特許権の存続期間を延長する締約国の権利又は欧州特許権の存続期間の満了直後から欧州特許権に匹敵する保護を与える締約国の権利を妨げるものではない。
(3) (2)の規定は,第142条の規定に従い一群の締約国に一括して付与される欧州特許に準用する。
(4) 存続期間の延長又は(2)(b)に規定する欧州特許権に匹敵する保護を認めている締約国は,欧州特許機構との間で締結される協定に従い,欧州特許庁に対し,関連する規定の実施に関する任務を委任することができる。
 
第64条 欧州特許によって与えられる権利
(1) 欧州特許は,(2)の規定を条件として,その付与の告示の日からそれが付与された各締約国において当該締約国で付与された国内特許によって与えられる権利と同一の権利をその特許権者に与える。
(2) 欧州特許の対象が方法である場合は,特許によって与えられる保護は,その方法によって直接得られる生産物にまで及ぶ。
(3) 欧州特許権の侵害は,すべて国内法令によって処理される。
 
第65条 欧州特許明細書の翻訳文
(1) 欧州特許庁により付与され,補正され,又は縮減された欧州特許が当該締約国の公用語の何れか1で作成されていない場合は,如何なる締約国も,特許権者が,そのものの選択による当該締約国の公用語の何れか1によって,又は,当該締約国が特定の1の公用語の使用を定めている場合は,その公用語で付与され,補正され又は縮減された特許の翻訳文を当該締約国の中央産業財産官庁に提出すべきことを規定することができる。翻訳文を提出するための期間は,当該締約国がより長い期間を定めていない限り,欧州特許付与の告示,補正された形又は縮減された形で維持される旨の告示が欧州特許公報に公告された日から3月までとする。
(2) (1)の規定に従う規定を採用した如何なる締約国も,特許権者が,当該締約国が定める期間内に,翻訳文の公表費用の全部又は一部を支払うべき旨を定めることができる。
(3) 如何なる締約国も,(1)及び(2)の規定に従って採用した規定が遵守されない場合は,当該締約国において欧州特許権が始めから効力を生じなかったものとみなされることを定めることができる。
 
第66条 欧州出願と国内出願との効力の同一
 出願日が認められた欧州特許出願は,指定された締約国において,正規の国内出願と同一の効力を有し,適当な場合は,欧州特許出願について主張される優先権を伴う。
 
第67条 公開後の欧州特許出願により与えられる権利
(1) 欧州特許出願は,その公開の日から,欧州特許出願で指定されている締約国において,第64条の規定により与えられる保護と同一の保護を出願人に仮に与える。
(2) 如何なる締約国も,欧州特許出願が第64条の規定により与えられる保護と同じ保護は与えないことを規定することができる。ただし,欧州特許出願の公開に対して与えられる保護は,当該締約国の法令が審査を終えていない国内特許出願の強制的公開に与える保護よりも狭いものであってはならない。何れの場合でも,各締約国は,何人かが国内特許権の侵害について国内法により責を負うべき事情の下で当該締約国において発明を使用したときは,欧州特許出願公開の日から出願人がその者に対してこの事情の下で相当な補償を請求し得ることを少なくとも保証する。
(3) 手続語を公用語としていないすべての締約国は,(1)及び(2)の規定による仮保護が,出願人の選択により当該締約国の公用語の何れか1又は,当該締約国が特定の公用語の1の使用を義務付けている場合は,その公用語によるクレームの翻訳文について次の何れかの時から効果を生じることを定めることができる。
(a)
国内法が規定する方法で公衆が利用することができるようにされた時,又は
(b)
当該締約国においてその発明を実施している者に対し送達された時
(4) 欧州特許出願は,それが取り下げられ,取り下げられたものとみなされ,又は拒絶が確定した場合は,(1)及び(2)に規定する効果を有していなかったものとみなす。その指定が取り下げられ,また取り下げられたものとみなされた締約国における欧州特許出願の効果についても同様とする。
 
第68条 欧州特許の取消又は縮減の効果
 欧州特許出願及びそれに基づく欧州特許は,当該特許が異議申立,縮減,取消手続において取り消され又は縮減された範囲については,第64条及び第67条に規定する効果を初めから有していなかったものとみなす。
 
第69条 保護の範囲
(1) 欧州特許又は欧州特許出願により与えられる保護の範囲は,クレームの文言によって決定される。ただし,明細書及び図面は,クレームを解釈するために用いられる。
(2) 欧州特許の付与までの期間においては,欧州特許出願により与えられる保護の範囲は,公開時の欧州特許出願に含まれるクレームによって決定される。ただし,付与されたとき,又は異議申立,縮減,取消手続において補正されたときの欧州特許は,それによって当該保護が拡張されない限り欧州特許出願により与えられる保護を遡及的に決定する。
 
第70条 欧州特許出願又は欧州特許の正本
(1) 手続語による欧州特許出願又は欧州特許の本文は,欧州特許庁及び各締約国におけるすべての手続において正本とする。
(2) ただし,欧州特許出願が欧州特許庁の公用語でない言語でされる場合は,その正本は,本条約に定義する意味において出願時における出願とする。
(3) 如何なる締約国も,翻訳文の言語による出願又は特許が手続語による出願又は特許により与えられる保護よりも狭い保護を与える場合は,その締約国においては,取消手続における場合を除くほか,本条約に規定された当該締約国の公用語の1による翻訳文が,当該締約国においては正本とみなされることを規定することができる。
(4) (3)の規定に基づく規定を採用する如何なる締約国も,
(a)
出願人又は特許権者が欧州特許出願又は欧州特許の訂正翻訳文を提出することを許容しなければならない。そのような訂正翻訳文は,第65条(2)及び第67条(3)の規定に基づき当該締約国が定める条件が,必要な変更を加えることにより満たされるまでは,如何なる法的効果も有さない。
(b)
その締約国において,ある発明を善意で実施し又は実施するために実際かつ誠実に準備をしていた者は,その実施が元の翻訳文における出願又は特許権の侵害を構成しない場合は,訂正翻訳文が効力を生じた後において,その業務において又は業務の必要のために無償でその実施を継続することができる旨を規定することができる。
 

第IV章 財産権の目的としての欧州特許出願

第71条 権利の移転及び設定
 欧州特許出願は,指定締約国の1又は2以上について移転すること又は権利を生じさせることができる。
 
第72条 譲渡
 欧州特許出願の譲渡は,書面によるものとし,契約当事者の署名を必要とする。
 
第73条 契約によるライセンス許諾
 欧州特許出願は,その全部又は一部を指定締約国の領土の全部又は一部についてライセンスすることができる。
 
第74条 準拠法
 本条約に別段の定めがない限り,財産権の目的としての欧州特許出願は,各指定締約国において当該指定国に対する効果を伴って,その指定国において国内特許出願に適用される法令に従う。
 

第III部 欧州特許出願

第I章 欧州特許出願の提出及びその要件

第75条 欧州特許出願の提出
(1) 欧州特許出願は,次の何れかに提出することができる。
(a)
欧州特許庁
(b)
締約国の法令が認め,かつ第76条(1)の規定に従うことを条件として,当該締約国の中央産業財産官庁又は締約国の他の管轄当局。この方法によって提出された出願は,同日に欧州特許庁に提出されたのと同一の効果を有する。
(2) (1)の規定は,各締約国において次の何れかについての立法規定又は規制規定を適用することを妨げない。
(a)
その対象の性質上,当該締約国の管轄当局の事前の承認なしに外国に知らせることができない発明を規制するもの
(b)
各出願は,最初に国内当局に提出しなければならず,又は事前の承認を受けてから他の当局に直接出願することを規定するもの
 
第76条 欧州分割出願
(1) 欧州分割出願は,施行規則に従って欧州特許庁に直接提出する。欧州分割出願は,元の出願の出願時の内容を超えない対象についてのみ出願することができる。この要件を満たす限り,分割出願は,元の出願の出願日に提出されたものとみなされ,優先権の利益を享受する。
(2) 欧州分割出願の出願時に,先の出願において指定されているすべての締約国は,欧州分割出願においても指定されたものとみなす。
 
第77条 欧州特許出願の送付
(1) 締約国の中央産業財産官庁は,施行規則に従い,中央産業財産官庁又は当該国の他の管轄当局に出願された欧州特許出願を欧州特許庁に送付する。
(2) 対象が秘密とされる欧州特許出願は,欧州特許庁に送付してはならない。
(3) 所定の期間内に欧州特許庁に送付されなかった欧州特許出願は,取り下げられたものとみなす。
 
第78条 欧州特許出願の要件
(1) 欧州特許出願は,次のものを含むものとし,
(a)
欧州特許の付与を求める願書
(b)
明細書
(c)
1又は2以上のクレーム
(d)
明細書又はクレームで言及されている図面
(e)
要約
かつ,施行規則に定める条件を満たすものとする。
(2) 欧州特許出願については,出願手数料及び調査手数料を支払わなければならない。出願手数料又は調査手数料が支払期間内に支払われなかった場合は,その出願は,取り下げられたものとみなす。
 
第79条 締約国の指定
(1) 欧州特許出願の出願時において本条約のすべての締約国は,欧州特許の付与を求める願書において指定されたものとみなす。
(2) 締約国の指定については,指定手数料を支払わなければならない。指定手数料は,欧州特許公報に欧州調査報告の公開の旨が掲載された日から6月以内に支払わなければならない。
(3) 締約国の指定は,欧州特許が付与されるまでは,いつでも取り下げることができる。
 
第80条 出願日
 欧州特許出願の出願日は,施行規則が定めた要件が満たされた日とする。
 
第81条 発明者の表示
 欧州特許出願には,発明者を表示する。出願人が発明者でない場合又は単独の発明者でない場合は,表示には,欧州特許を受ける権利の発生を示す陳述を記載する。
 
第82条 発明の単一性
 欧州特許出願は,1の発明又は単一の包括的発明概念を形成するように連関している一群の発明についてのみ行う。
 
第83条 発明の開示
 欧州特許出願は,当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に,発明を開示しなければならない。
 
第84条 クレーム
 クレームには,保護が求められている事項を明示する。クレームは,明確かつ簡潔に記載し,明細書により裏付けがされているものとする。
 
第85条 要約
 要約は,技術情報としてのみ用いるものとし,他の目的のため,特に,求められている保護の範囲を解釈するため又は第54条(3)の規定を適用するために考慮に入れることができない。
 
第86条 欧州特許出願の更新手数料
(1) 欧州特許出願の更新手数料は,施行規則に従い,欧州特許庁に支払う。更新手数料は,出願日から起算して第3年及びそれに続く各年につき支払う。更新手数料が所定の期限までに支払われない場合は,出願は,取り下げられたものとみなす。
(2) 更新手数料の支払義務は,欧州特許の付与の告示があった年について支払うべき更新手数料の支払をもって消滅する。
 

第II章 優先権

第87条 優先権
(1) 次の何れかの国において又は何れかの国について,正規に特許出願,実用新案出願又は実用新案証の出願をした者又はその承継人は,同一の発明について欧州特許出願をすることに関し,最初の出願の日から12月の期間中優先権を有する。
(a)
産業財産の保護に関するパリ条約の締約国,又は
(b)
世界貿易機関の加盟国
(2) 出願がされた国の国内法又は本条約を含む2国間若しくは多国間の条約により正規の国内出願とされるすべての出願は,優先権を生じさせるものと認められる。
(3) 正規の国内出願とは,その出願の結果の如何を問わず,出願をした日を確定するに十分なすべての出願をいう。
(4) 最先の先の出願と同一の対象についてされた後の出願であって同一の国において又は同一の国についてされた出願は,後の出願の出願日において先の出願が公衆の閲覧に付されることなく,かつ,如何なる権利をも存続させることなく,取り下げられ,放棄され又は拒絶され,さらに優先権を主張するための基礎として用いられていないときは,優先権を決定するに際して最先の出願と認められる。先の出願は,その後優先権を主張するための基礎として用いることができない。
(5) 最先の出願が産業財産の保護に関するパリ条約又は世界貿易機関を設立するための協定に加入していない産業財産当局になされた場合,(1)から(4)までの規定は,当該当局が欧州特許庁長官が発出した通知に従い,かつ,欧州特許庁になされた最先の出願に対して,パリ条約に規定する条件と同等の条件の下に同等の効力を有する優先権を認める場合に限り適用する。
 
第88条 優先権主張
(1) 先の出願の優先権を利用しようとする出願人は,施行規則の定めるところにより,優先権の申立及びその他の必要書類を提出する。
(2) 複合優先権は,これらの優先権が異なる国で発生した場合であっても,1の欧州特許出願について主張することができる。適当な場合は,複合優先権を何れか1のクレームに対して主張することができる。複合優先権が主張される場合は,優先日から起算される期間は,最先の優先日から起算される。
(3) 1又は2以上の優先権が1の欧州特許出願に対して主張される場合は,優先権が及ぶのは,欧州特許出願の構成部分のうちその優先権が主張されている出願に含まれる部分のみである。
(4) 優先権が主張されている発明のある構成部分が先の出願において作成されているクレームに現れていない場合においても,先の出願の書類が全体的にみてその構成部分を具体的に開示している場合は,優先権を認めることができる。
 
第89条 優先権の効力
 優先権は,第54条(2)及び(3)並びに第60条(2)の規定については,優先日が欧州特許出願の出願日とみなされる効力を有する。
 

第IV部 特許付与までの手続

第90条 出願時の審査及び方式要件についての審査
(1) 欧州特許庁は,施行規則に従って,出願が出願日を付与するための要件を満たしているか否かを審査する。
(2) (1)の審査により出願日を与えることができない場合は,出願は,欧州特許出願として取り扱われない。
(3) 欧州特許出願に出願日が与えられた場合は,欧州特許庁は,施行規則に従って,第14条第78条及び第81条の要件が満たされているか否か,適当な場合は,第88条(1),第133条(2)及び施行規則が定める他の要件が満たされているか否かを審査する。
(4) (1)又は(3)に規定する審査において,補充し得る欠陥があることを欧州特許庁が指摘した場合は,出願人に欠陥を補充する機会を与える。
(5) (3)に規定する審査において指摘された欠陥が補充されない場合は,欧州特許出願は,拒絶される。欠陥が優先権に関する場合は,この優先権は,当該出願については喪失する。
 
第91条[削除]
 
第92条 欧州調査報告の作成
 明細書及び図面に適当な考慮を払った上でクレームに基づき施行規則の規定に従って欧州特許出願についての欧州調査報告を作成及び公開する。
 
第93条 欧州特許出願の公開
(1) 欧州特許庁は,欧州特許出願を次の時期にできる限り早く公開する。
(a)
出願日から又は,優先権が主張されている場合は,優先日から18月経過後,又は
(b)
出願人から請求があった場合は,上記期間の満了前
(2) 欧州特許の付与の決定が(1)(a)に定める期間の経過前に効力を生じるに至った場合は,欧州特許出願は,欧州特許の明細書と同時に公開される。
 
第94条 欧州特許出願の審査
(1) 欧州特許庁は,施行規則の規定に従って,請求により欧州特許出願及びその出願にかかる発明が本条約の要件を満たすか否かを審査する。審査手数料が支払われるまでは審査請求があったものとはみなされない。
(2) 審査請求が所定の期限までにされない場合は,出願は,取り下げられたものとみなす。
(3) 審査によって,当該出願又は当該出願にかかる発明が本条約の要件を満たしていないことが明らかになった場合は,審査部は,出願人に対し,必要な場合は何度でも,意見書を提出し,かつ,第123条(1)の規定に従い,出願を補正するよう求める。
(4) 出願人が審査部からの通知に対して所定の期限までに応答しない場合は,当該出願は取り下げられたものとみなす。
 
第95条[削除]
 
第96条[削除]
 
第97条 特許付与又は拒絶
(1) 審査部は,欧州特許出願及びその出願にかかる発明が,本条約の要件を満たしていると認める場合は,欧州特許を付与する旨の決定をする。ただし,施行規則に定める条件を満たしている場合に限る。
(2) 審査部は,欧州特許出願又はその出願にかかる発明が本条約の要件を満たしていないと認める場合,本条約が別段の制裁を定めている場合を除き,出願を拒絶する。
(3) 欧州特許を付与する旨の決定は,欧州特許公報が欧州特許の付与を告示した日に効力を生じる。
 
第98条 欧州特許明細書の公開
 欧州特許庁は,欧州特許公報において欧州特許付与の告示がなされた後に,できる限り速やかに欧州特許明細書を公開する。
 

第V部 異議申立及び縮減手続

第99条 異議申立
(1) 欧州特許公報における欧州特許付与の告示の公表から9月以内に,施行規則に従い,如何なる者も,欧州特許庁にその特許に対する異議を申し立てることができる。異議申立は,異議申立手数料が支払われるまでされたものとはみなさない。
(2) 異議申立は,欧州特許が効力を有するすべての締約国における欧州特許に及ぶ。
(3) 異議申立人は特許権者と共に異議申立手続の当事者となる。
(4) 何れかの者が1の締約国において確定した決定に従い前特許権者に代わって当該締約国の特許登録簿に登録された旨の証拠を提出した場合は,その者は,請求により,当該締約国に関しては前特許権者に代わる。第118条の特例として,前特許権者及び前記の請求をする者は,双方の請求がない限り,共同権利者とみなさない。
 
第100条 異議申立理由
 異議は,次の理由に基づいてのみ申し立てることができる。
(a)
欧州特許の対象が第52条から第57条までの規定に基づいて特許することができないこと
(b)
欧州特許が発明を当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に開示していないこと
(c)
欧州特許の対象が出願時の出願内容を超えていること,又は,特許が分割出願について若しくは第61条の規定に従い提出された新たな出願について付与された場合は,先の出願の出願時の内容を超えていること
 
第101条 異議申立の審査,欧州特許の取消又は維持
(1) 異議申立が受容し得るものである場合は,異議部は,施行規則に従って,第100条に定める異議申立の理由の少なくとも1が欧州特許の維持を妨げるか否かを審査する。この審査期間中に,異議部は,他の当事者からの又は異議部自身が発出した通知に対して,必要な場合は何度でも,意見書を提出することを当事者に求める。
(2) 異議部は,異議申立の理由の少なくとも1によって,欧州特許を維持することができないと認める場合は,特許を取り消す。それ以外の場合は,異議申立は,却下する。
(3) 異議部は,異議申立の手続中に特許権者がした補正を考慮した上で,特許及びそれにかかる発明が,
(a)
本条約の要件を満たしていると認める場合は,施行規則に定める条件が満たされている場合に限り,補正された明細書を維持するという決定をし,
(b)
本条約の要件を満たしていないと認める場合は,その特許を取り消す。
 
第102条[削除]
 
第103条 新たな欧州特許明細書の公表
 欧州特許が第101条(3)(a)に基づき補正された形で維持された場合は,欧州特許庁は,異議申立に関する決定の告示が欧州特許公報においてされた後できる限り速やかに,欧州特許の新たな特許明細書を公表しなければならない。
 
第104条 費用
(1) 異議手続の各当事者は,異議部が衡平の理由に基づいて費用の異なる分担を施行規則に従い決定した場合を除き,それぞれが負った費用を負担する。
(2) 費用の額の確定手続は,施行規則に定める。
(3) 費用の額の確定に関する欧州特許庁の最終決定は,締約国における執行に関し,その領土内で執行される締約国の民事裁判所による終局判決と同様に扱われる。そのような決定の確認は,その決定が真正なものであるか否かに限定される。
 
第105条 侵害者とされた者の参加
(1) 如何なる第三者も,次のことを証明するときは,施行規則に従って異議申立期間が経過した後に異議申立手続に参加することができる。
(a)
同一の特許権についての侵害手続がその者に対して開始されたこと,又は
(b)
特許権者がその者に特許権の侵害を中止するよう請求した後に,その者が特許権を侵害していない旨の裁判所の裁定を求める手続を開始したこと
(2) 容認された参加は,異議申立として取り扱う。
 
第105a条 縮減又は取消の請求
(1) 特許権者から請求があったとき,欧州特許は,取り消すことができ又はクレームの補正によって縮減することができる。その請求は,施行規則に従って欧州特許庁にする。請求は,縮減又は取消のための手数料が支払われるまでは,されたものとみなされない。
(2) この請求は,欧州特許庁についての異議手続が係属している間はすることができない。
 
第105b条 欧州特許の縮減又は取消
(1) 欧州特許庁は,欧州特許を縮減し又は取り消すために施行規則に定める要件が満たされているか否かを審査する。
(2) 欧州特許庁は,欧州特許の縮減又は取消の請求がこれらの要件を満たしていると認める場合は,施行規則に従って,その欧州特許を縮減し又は取り消すことを決定する。それ以外の場合は,請求を却下する。
(3) 欧州特許を縮減又は取り消す決定は,その付与の対象となっているすべての締約国における欧州特許に適用される。当該決定は,欧州特許公報に告示される日に効力を生じる。
 
第105c条 補正された欧州特許明細書の公開
 欧州特許が第105b条(2)に基づいて縮減された場合,欧州特許庁は,欧州特許公報においてかかる縮減の告示がなされた後,できる限り速やかに補正された欧州特許明細書を公開する。
 

第VI部 審判手続

第106条 審判に服する決定
(1) 受理課,審査部,異議部及び法規部の決定に対しては審判を請求することができる。審判請求は,執行停止の効力を有する。
(2) 当事者の一方について手続を終結させない決定に対しては,その決定により別個の審判請求が許される場合を除き,最終決定に対する請求と共にのみ審判を請求することができる。
(3) 異議申立手続費用の分担又は確定に関する決定に対して審判請求する権利は,施行規則によって制限することができる。
 
第107条 審判を請求し得る者及び審判手続の当事者となり得る者
 決定によって不利な影響を受けた手続に関与した者は,審判を請求することができる。手続の他の当事者は,当然に審判手続の当事者となる。
 
第108条 審判請求の期間とその方式
 審判請求は,施行規則に従って,審判請求の対象となる決定の通知の日から2月以内に欧州特許庁に書面で提出する。審判請求は,審判請求手数料が支払われるまで提出されたものとみなさない。当該決定の通知の日から4月以内に審判請求の理由を記載した書面を,施行規則に従って提出するものとする。
 
第109条 中間変更
(1) その決定が争われている部課が審判請求は受容されるべきものであり,かつ,理由があるものと認める場合は,当該部課は,その決定を修正する。この規定は,審判請求人が審判手続における他の当事者と対立している場合には適用しない。
(2) 審判請求が理由を記載した書面の受理後3月以内に受容されなかった場合,審判請求は,遅滞なくかつ実体についての意見を付することなく,審判部に送られる。
 
第110条 審判請求の審理
 審判請求が適格である場合は,審判部は,審判請求が容認されるべきか否かを審理する。審判の審理は,施行規則の規定に従って行う。
 
第111条 審判請求に関する審決
(1) 審判請求を容認できるか否かについて審理した後に,審判部は,審判請求について審決する。審判部は,審判請求されている決定をした部課の権限範囲内における権限を行使することができ,又は事件を更に審査させるために当該部課に差し戻すことができる。
(2) 審判部が審判請求されている決定をした部課に事件を更に審査させるために差し戻した場合は,当該部課は,事実関係が同一である限り,審判部の審決理由に拘束される。審判請求されている決定が受理課によるものである場合は,審査部も,同様に審判部の審決理由に拘束される。
 
第112条 拡大審判部の審決又は意見
(1) 法律の統一的適用を確保するために又は重要な法律問題が生じた場合は,
(a)
審判部は,事件についての手続が係属中に自ら又は審判手続の当事者の請求により,上記目的のために審決を必要とすると認める場合は,問題を拡大審判部に付託する。審判部が請求を却下した場合は,審判部は,最終審決において却下の理由を示す。
(b)
欧州特許庁長官は,2の審判部が法律問題について異なる決定をした場合は,拡大審判部にその問題を付託することができる。
(2) (1)(a)に該当する場合は,審判手続の当事者は,拡大審判部の手続の当事者となる。
(3) (1)(a)にいう拡大審判部の審決は,問題となった審判事件について審判部を拘束する。
 
第112a条 拡大審判部による検討のための申請
(1) 審判部の審決によって不利になった審判手続の当事者は,拡大審判部による検討のための申請をすることができる。
(2) 申請は,次の理由に基づいてのみすることができる。
(a)
審判部の構成員が,第24条(1)の規定に違反して,又は第24条(4)の規定に基づく決定により除斥されているにも拘らず,その決定に関与したこと
(b)
審判部の構成員として任命されていない者が審判に加わっていたこと
(c)
 第113条における基本的違反が生じていたこと
(d)
審判手続において施行規則に規定する他の基本的な手続上の瑕疵があったこと,又は
(e)
施行規則に規定する条件の下でなされる犯罪行為がその決定に重大な影響を与えたこと
(3) 検討の申請は,執行停止の効力を有さない。
(4) 検討の申請は,施行規則に従い,理由を示した陳述書の形式でする。(2)(a)から(d)までの規定に基づく場合は,審判部による決定の通知から2月以内に申請をする。(2)(e)の規定に基づく場合は,犯罪行為が行われた日から2月以内であって,如何なる場合でも審判部による決定の通知から5年を超えないうちに申請をする。指定された手数料が支払われるまでは,申請は,されたものとみなさない。
(5) 拡大審判部は,施行規則に従い,検討の申請を審理する。申請が許容し得るものである場合は,拡大審判部は,検討の対象となった決定を破棄し,施行規則に従い,審判部における手続を再開する。
(6) 公開された欧州特許出願又は欧州特許の対象である発明を,指定された締約国において,検討に基づく審判部の決定と申請に対する拡大審判部の決定の告示の公告の間に,善意に使用又はその発明を使用するために有効かつ相当の準備をしていた者は,その業務を遂行する上で又はその業務の必要のために,無償で,その使用を継続することができる。
 

第VII部 共通規定

第I章 手続に関する共通規定

第113条 決定の根拠
(1) 欧州特許庁の決定は,関係当事者が自己の意見を表明する機会が与えられる根拠となった理由又は証拠に基づいてのみすることができる。
(2) 欧州特許庁は,出願人若しくは特許権者が提出し又は同意した本文のみに基づいて欧州特許出願若しくは欧州特許につき考察し決定する。
 
第114条 欧州特許庁の職権による審査
(1) 欧州特許庁の手続において,欧州特許庁は,職権により事実を審査するものとし,この事実の審査において,当事者が提出した事実,証拠及び主張並びに求められた救済に限定されない。
(2) 欧州特許庁は,関係当事者が提出期限までに提出しなかった事実又は証拠を無視することができる。
 
第115条 第三者による意見
 欧州特許庁の手続において,欧州特許出願の公開後に,如何なる第三者も,施行規則に基づいて,出願に係る発明の特許性に関して意見を述べることができる。ただし,その者が欧州特許庁における手続の当事者となることはできない。
 
第116条 口頭審理
(1) 口頭審理は,欧州特許庁が適当と認める場合,欧州特許庁の要求に基づいて,又は手続の当事者の一方の請求に基づいて行う。ただし,欧州特許庁は手続の当事者及び対象が同一である場合は,同一部課においてされる再度の口頭審理の請求を却下することができる。
(2) もっとも,受理課における口頭審理は,受理課が適当と認めた場合又は受理課が欧州特許出願を拒絶しようとしている場合においてのみ,出願人の請求に基づいて行われる。
(3) 受理課,審査部及び法規部における口頭審理は,公開されないものとする。
(4) 公開することが特に手続の当事者の一方に重大でかつ不当な不利益を与える虞がある場合において,手続が係属している部課が公開に反対しない限り,欧州特許出願の公開後の審判部及び拡大審判部における,並びに異議部における決定の言渡しを含む口頭審理は,公開して行われる。
 
第117条 証拠調べ
(1) 欧州特許庁の手続において,証拠を提出し又は証拠を調べる方法は,次のものを含む。
(a)
当事者の聴聞
(b)
情報の請求
(c)
文書の提出
(d)
証人の聴聞
(e)
鑑定人による鑑定
(f)
検証
(g)
宣誓供述書
(2) 証拠調べの手続は,施行規則で定める。
 
第118条 欧州特許出願又は欧州特許の単一性
 複数の欧州特許の出願人又は特許権者が各指定締約国について同一でない場合は,それらの者は,欧州特許庁における手続については,共同出願人又は共同権利者とみなす。これらの手続における出願又は特許の単一性が害されることはない。特に,出願又は特許の本文は,本条約に別段の定めがある場合を除くほか,すべての指定締約国について同じでなければならない。
 
第119条 送達
 決定,召喚,通告及び通知は,施行規則に従って,欧州特許庁が,その発意により送達する。送達は,特別の事情がある場合は,締約国の中央産業財産官庁を介して行うことができる。
 
第120条 期限
 施行規則には,次のことを明記する。
(a)
欧州特許庁に対する手続において遵守すべき期限で,かつ,本条約によって定められていない期限
(b)
期限の計算方法及び期限を延長することのできる条件
(c)
欧州特許庁が決定すべき最短期限と最長期限
 
第121条 欧州特許出願についての手続の続行
(1) 出願人は,欧州特許庁に対して期間を遵守できない場合でも,欧州特許出願手続の続行を請求することができる。
(2) 欧州特許庁は,請求が施行規則に定める要件を満たしている場合は,その請求を容認する。その他の場合は,欧州特許庁は,請求を却下する。
(3) 請求が容認された場合は,期間を遵守しなかったことにより発生した法的結果は,生じなかったものとみなす。
(4) 手続の続行は,第87条(1),第108条及び第112a条(4)の期間については,手続の続行の請求期間又は権利の回復の請求期間と同様に,除外される。施行規則において,その他の期間について手続の続行を除外することができる。
 
第122条 権利の回復
(1) 状況によって必要とされる相当な注意をしたにも拘らず,欧州特許庁に対し期間を遵守することができなかった欧州特許出願人又は欧州特許権者は,この期間の不遵守が直接の結果として,欧州特許出願若しくは何らかの請求の拒絶,欧州特許出願が取り下げられたものとみなされること,欧州特許の取消又はその他の権利若しくは救済手段の喪失をもたらす場合は,請求により,自らの権利を回復することができる。
(2) 欧州特許庁は,当該請求が(1)及び施行規則の要件を満たしている場合は,かかる請求を容認する。それ以外の場合は,欧州特許庁は,請求を却下する。
(3) 請求が容認された場合は,期間の不遵守による法的結果は,生じなかったものとみなす。
(4) 権利の回復は,権利の回復の請求期間については除外される。施行規則において,他の期間についての権利の回復を除外することができる。
(5) 公開された欧州特許出願又は欧州特許の対象である発明を,指定された締約国において(1)の権利喪失とその権利の回復の告示の公告との間に善意に使用し又はその発明を使用するために有効かつ相当な準備をした者は,その業務を遂行する上で又はその業務の必要のために,無償でその使用を継続することができる。
(6) 本条の如何なる規定も,締約国の当局に対し遵守すべき本条約に定められる期間に関して原状回復を許容する当該締約国の権利を制限するものではない。
 
第123条 補正
(1) 欧州特許出願又は欧州特許は,欧州特許庁における手続において,施行規則に従い,補正することができる。如何なる場合においても,出願人は,出願について自発的に補正をする少なくとも1回の機会が与えられる。
(2) 欧州特許出願又は欧州特許は,出願時における出願内容を超える対象を含めるように補正してはならない。
(3) 欧州特許は,保護を拡張するように補正してはならない。
 
第124条 先行技術に関する情報
(1) 欧州特許庁は,施行規則に従って,出願人に対し,欧州特許出願にかかる発明に関して国内特許手続又は広域特許手続において考慮された先行技術情報を提出するよう求めることができる。
(2) 出願人が(1)に規定する求めに対して期間内に応答しなかった場合は,欧州特許出願は,取り下げられたものとみなす。
 
第125条 一般的原則の参照
 本条約に手続規定がない場合は,欧州特許庁は,各締約国において一般に承認されている手続法の原則を考慮する。
 
第126条[削除]
 

第II章 公衆又は官庁に対する情報提供

第127条 欧州特許登録簿
 欧州特許庁は,欧州特許登録簿を保管し,施行規則に規定する事項を記録する。欧州特許出願の公開前は欧州特許登録簿に如何なる記載もしてはならない。特許登録簿は,公衆の閲覧に供する。
 
第128条 書類の閲覧
(1) 未だ公開されていない欧州特許出願に関するファイルは,出願人の同意なしに,閲覧に供することはできない。
(2) 何人も,欧州特許出願人がその者に対して欧州特許出願に基づく権利を援用したことを証明することのできる者は,当該出願の公開前に出願人の同意なしにファイルの閲覧をすることができる。
(3) 欧州分割出願又は第61条(1)の規定に基づいて提出された新たな欧州特許出願が公開された場合は,何人も,原出願の公開前に,当該出願人の同意なしに原出願のファイルの閲覧をすることができる。
(4) 欧州特許出願の公開後には,欧州特許出願及びその欧州特許に関するファイルは,施行規則に定める制限に従い,請求によって閲覧することができる。
(5) 欧州特許出願の公開前であっても,欧州特許庁は,施行規則に規定する事項を第三者に通知し又は公表することができる。
 
第129条 定期刊行物
 欧州特許庁は,定期的に次のものを発行する。
(a)
本条約,施行規則又は欧州特許庁長官により公表することが定められている事項を記載する欧州特許公報
(b)
欧州特許庁長官が発出した一般的な告示及び情報,並びに本条約又はその施行に関連するその他の情報を記載する欧州特許庁公報
 
第130条 情報の交換
(1) 欧州特許庁及び締約国の中央産業財産官庁は,本条約又は国内法令に別段の定めがある場合を除くほか,欧州特許出願又は国内特許出願及び特許並びにそれらに関する手続についての有益な情報を請求により互いに通知する。
(2) (1)の規定は,欧州特許庁と次の何れかとの間の実務協定による情報の交換に適用する。
(a)
他国の中央産業財産官庁
(b)
特許の付与の任務を委託された政府間機関
(c)
その他の機関
(3) (1),(2)(a)及び(b)に規定する通知は,第128条に定める制限を受けない。管理理事会は,関係機関が通知された情報を欧州特許出願が公開されるまで秘密に保つことを条件として(2)(c)に規定する通知が上記の制限を受けない旨を定めることができる。
 
第131条 管理上の及び法的協力
(1) 本条約又は国内法令に別段の定めがある場合を除くほか,欧州特許庁及び締約国の裁判所又は当局は,請求により,情報を通知し又は閲覧のためにファイルを開放することによって相互に援助する。欧州特許庁が,裁判所,検察庁又は中央産業財産官庁に書類を閲覧のため開放する場合は,その閲覧は,第128条に定める制限を受けない。
(2) 欧州特許庁からの調査依頼状を受理した場合は,締約国の裁判所又はその他の管轄当局は,欧州特許庁に代わりそれぞれの権限内において,必要な調査をし又はその他の法的手段をとる。
 
第132条 刊行物の交換
(1) 欧州特許庁及び締約国の中央産業財産官庁は,要請に応じかつ自ら使用するために,各自の刊行物を1又は2部以上無料で相互に送付する。
(2) 欧州特許庁は,刊行物の交換又は提供に関する協定を締結することができる。
 

第III章 代理

第133条 代理の一般原則
(1) (2)の規定に従うことを条件として,如何なる者も,本条約に規定される手続を職業代理人が代理することを強制されない。
(2) 締約国内に住所又は主たる営業所を有していない自然人又は法人については,欧州特許出願の提出を除き,本条約に規定するすべての手続を職業代理人が代理しかつその代理人を通して手続をする。施行規則には,その他の例外を規定することができる。
(3) 締約国内に住所又は主たる営業所を有する自然人又は法人については,本条約に規定する手続をその従業者が代理することができる。この従業者は,職業代理人であることを要さないが,施行規則に従い,授権を要する。施行規則には,そのような法人の従業者が締約国内に営業所を有しかつ当該法人と経済的な関係を有する他の法人の代理をもすることができるか及び如何なる条件の下で代理することができるかについて定めることができる。
(4) 施行規則には,共同で手続をする複数当事者の共同代理に関する特別の規定を定めることができる。
 
第134条 欧州特許庁に対する代理
(1) 本条約によって規定する手続における自然人又は法人の代理は,このために欧州特許庁に備えられた名簿に氏名が登録されている職業代理人のみがすることができる。
(2) 次の条件を満たす如何なる自然人も,職業代理人名簿に登録することができる。
(a)
締約国の国民であること
(b)
締約国の領域内に事務所又は雇用場所を有すること,及び
(c)
欧州資格試験に合格したこと
(3) 本条約の締約国に加盟した日より1年の期間内に,次の条件を満たす自然人は,当該名簿への登録を申請するとができる。
(a)
締約国の国民であること
(b)
締約国の領域内に事務所又は雇用場所を有すること,及び
(c)
締約国の中央産業財産官庁に対し特許事件に関して自然人又は法人を代理する資格を有すること。そのような資格に特別の職業資格が求められない場合は,その者は,当該締約国で少なくとも5年間業としてその業務をしていなければならない。
(4) (2)又は(3)に規定する条件が満たされている旨の証明書を添付した申請があった場合は,登録をする。
(5) その氏名が職業代理人名簿に掲げられている者は,本条約に規定するすべての手続を行う資格を有する。
(6) その氏名が(1)に規定する名簿に掲げられている者は,職業代理人として行動するために,本条約に付属する集中に関する議定書に照し,本条約に規定する手続が行われる何れかの締約国に事務所を設立する権利を有する。そのような締約国の当局は,公共の安全及び法令の保護のために制定された法的規定が適用される場合においてのみ,その権利を奪うことができる。この措置がとられる前に,欧州特許庁長官と協議する。
(7) 欧州特許庁長官は,次のことを免除することができる。
(a)
特別な場合において(2)(a)又は(3)(a)に規定する要件
(b)
出願人が他の方法で必要な資格を得た旨の証明を提出した場合は,(3)(c)の第2文に規定する要件
(8) 締約国において資格を与えられかつ当該締約国に事務所を有する弁護士もまた,当該締約国において特許事件の分野で職業代理人として行動することができる範囲内で,職業代理人と同様に,本条約に規定する手続の代理を行うことができる。この場合は,(6)の規定を準用する。
 
第134a条 欧州特許庁に対する職業代理人団体
(1) 管理理事会は,次の事項を規制する規定を採択しかつ修正する権限を有する。
(a)
欧州特許庁に対する職業代理人団体(以下「団体」という。)
(b)
欧州資格試験を受験する者に必要とされる資格及び研修,並びにその試験の実施
(c)
団体又は欧州特許庁により職業代理人に対して行使される懲戒権
(d)
欧州特許庁に対する手続における,職業代理人と依頼人又はその他の者との間の通信についての職業代理人の守秘義務及び不開示特権
(2) 第134条(1)の規定に従って職業代理人名簿に登録された者は,団体の一員となる。
 

第VIII部 国内法に対する影響

第I章 国内特許出願への変更

第135条 国内手続適用の請求
(1) 指定された締約国の中央産業財産官庁は,欧州特許出願人又は欧州特許権者の請求により,次の場合は,国内特許付与手続を適用する。
(a)
欧州特許出願が第77条(3)の規定により取り下げられたものとみなされた場合
(b)
国内法令に規定するその他の場合であって,本条約に基づき欧州特許出願が拒絶され,取り下げられ若しくは取り下げられたものとみなされ,又は欧州特許が取り消された場合
(2) (1)(a)に規定する場合は,変更の請求は,欧州特許出願がされた中央産業財産官庁に提出する。当該中央産業財産官庁は,国の安全保障の規定に従うことを条件として,変更の請求を,そこにおいて特定されている締約国の中央産業財産官庁に直接送付する。
(3) (1)(b)に規定する場合は,変更の請求は,施行規則に従い,欧州特許庁へ提出する。変更手数料が支払われるまで,変更の請求は,提出されたものとはみなさない。欧州特許庁は,特定されている締約国の中央産業財産官庁に変更の請求を送付する。
(4) 第66条にいう欧州特許出願の効力は,変更の請求が提出期限までに提出されない場合は,消滅する。
 
第136条[削除]
 
第137条 変更のための方式要件
(1) 第135条(2)又は(3)の規定に従って送付された欧州特許出願に対しては,本条約に規定する要件と異なるか又は要件が追加されている国内法令の方式要件を課してはならない。
(2) 欧州特許出願が送付された中央産業財産官庁は,出願人に対し,2月を超えない期間内に,次の行為を行うことを要求することができる。
(a)
国内出願手数料を支払うこと
(b)
出願人が国内手続に提出することを希望する欧州特許出願の元の本文及び,適切な場合は,欧州特許庁における手続の係属中に補正された本文のその締約国の公用語の1による翻訳文を提出すること
 

第II章 取消及び先行権利

第138条 欧州特許の取消
(1) 第139条の規定に従うことを条件として,欧州特許は,次の事由に基いてのみ,締約国の領域にわたる効力をもって取り消すことができる。
(a)
欧州特許の対象が第52条から第57条までの規定により特許することができないこと
(b)
欧州特許が発明を当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に開示していないこと
(c)
欧州特許の対象が出願時の出願内容を超えていること,又は特許が分割出願について若しくは第61条の規定に従い提出された新たな出願について付与された場合に,原出願の出願時の内容を超えていること
(d)
欧州特許によって付与された保護が拡張されていること,又は
(e)
欧州特許権者が第60条(1)に規定する権利を有していないこと
(2) 取消事由が欧州特許の一部に係わる場合は,当該特許は,クレームに対応して縮減し,部分的に取り消される。
(3) 欧州特許の有効性に関し権限を有する裁判所又は当局における手続において,特許権者は,クレームを補正することによって特許を縮減する権利を有する。このように縮減された特許は,この手続における基礎となる。
 
第139条 先の日付又は同じ日付の権利
(1) 何れの指定締約国においても,欧州特許出願及び欧州特許は,国内特許出願及び国内特許に関して,国内特許出願及び国内特許と同一の先行権利としての効力を有する。
(2) 締約国における国内特許出願及び国内特許は,当該締約国が指定されている欧州特許に関して,国内特許に対する同一の先行権利としての効力を有する。
(3) 如何なる締約国も,同じ出願日若しくは,優先権が主張されている場合は,同じ優先日を有する欧州特許出願又は欧州特許及び国内特許出願又は国内特許の双方に開示された発明を双方の出願又は特許により同時に保護し得るか及び如何なる条件の下で保護し得るかを規定することができる。
 

第III章 その他の効果

第140条 国内実用新案及び実用証
 第66条第124条第135条第137条及び第139条の規定は,国内法令が実用新案及び実用証について規定している締約国において登録又は寄託されている実用新案及び実用証並びに実用新案出願及び実用証出願に適用する。
 
第141条 欧州特許の更新手数料
(1) 欧州特許についての更新手数料は,第86条(2)に規定する年に続く年についてのみ課すことができる。
(2) 欧州特許付与の告示の公表の後2月以内に支払期限が来る更新手数料は,その期間内に納付された場合は,有効に支払われたものとみなす。国内法令に規定する如何なる追加の手数料も,請求することができない。
 

第IX部 特別取決め

第142条 単一の特許
(1) 付与される欧州特許がそれらの全領域にわたって単一である旨を特別取決めによって規定する一群の締約国は,欧州特許がこれらすべての国について連帯的にのみ付与され得る旨を規定することができる。
(2) 一群の締約国が(1)に規定する権限を利用する場合は,この部の規定を適用する。
 
第143条 欧州特許庁の特別部課
(1) 一群の締約国は,欧州特許庁に追加の職務を課することができる。
(2) 追加の職務を遂行するために一群の締約国に共通の特別部課を欧州特許庁内に設置することができる。欧州特許庁長官は,かかる特別部課を指揮する。この場合は,第10条(2) 及び(3)の規定を準用する。
 
第144条 特別部課における代理
 一群の締約国は,第143条(2)に規定する特別部課における当事者の代理を規制する特別の規定を定めることができる。
 
第145条 管理理事会の特別委員会
(1) 一群の締約国は第143条(2)の規定に基づいて設置された特別部課の活動を監督するために,管理理事会の特別委員会を設置することができる。欧州特許庁は,特別委員会の職務の遂行に必要な職員,敷地建物及び備品をその使用に供する。欧州特許庁長官は,管理理事会の特別委員会に対し特別部課の活動についての責任を負う。
(2) 特別委員会の組織,権限及び職務は,一群の締約国が決定する。
 
第146条 特別業務の遂行費用の補填
 第143条の規定に基づき欧州特許庁に追加の職務が与えられた場合は,一群の締約国は,当該職務の遂行につき機構の負った費用を負担する。これらの追加の職務を遂行するために欧州特許庁内に特別部課が設置された場合は,一群の締約国は,これらの部課に課し得る職員,敷地建物及び備品の費用を負担する。この場合,第39条(3)及び(4),第41条並びに第47条の規定を準用する。
 
第147条 単一特許のための更新手数料の支払
 一群の締約国が欧州特許について共通の更新手数料を定めた場合は,第39条(1)でいう比率は,共通の基準に基づいて計算する。第39条(1)に規定する最低額は,単一特許に適用する。第39条(3)及び(4)の規定を準用する。
 
第148条 財産権の目的として欧州特許出願
(1) 第74条の規定は,一群の締約国が別段の定めをする場合を除き,適用する。
(2) 一群の締約国は,これらの締約国を指定する欧州特許出願が,一群のすべての締約国について特別の取決めの規定に従ってのみ移転され,担保に供され又は法的執行の対象とすることができる旨を規定することができる。
 
第149条 共同指定
(1) 一群の締約国は,当該締約国を連帯的にのみ指定することができ,かつ,当該締約国の1国又は複数国のみの指定が当該一群のすべての国の指定とみなされる旨を規定することができる。
(2) 欧州特許庁が第153条(1)に規定する指定官庁として行動する場合において,出願人がその国際出願において一群の指定国の1又は2以上について欧州特許の取得を希望する旨を表示したときは,(1)の規定が適用される。出願人がその国際出願において一群の締約国の1を指定し,その締約国の国内法令がその締約国の指定は欧州特許を求める出願として効力を有すると定めている場合も,同様とする。
 
第149a条 指定国間における他の取決め
(1) 本条約は,欧州特許出願又は欧州特許についての問題に関していくつかの又はすべての締約国が特別の取決めをすることを制限していると解釈してはならず,特に次のような取決めにおいて国内法の規制を受けることもない。
(a)
その当事者たる締約国に共通の欧州特許裁判所を設立する取決め
(b)
国内裁判所又は準司法機関の要請により,欧州特許法又は調和された国内特許法の問題点に関して意見を発するための,その当事者たる締約国に共通の組織を設立するための取決め
(c)
その当事者たる指定国が,第65条でいう欧州特許の翻訳文のすべて又は一部をなしで済ませる取決め
(d)
その当事者たる指定国が,第65条でいう欧州特許の翻訳文を欧州特許庁に提出することもできるし,欧州特許庁に公開してもらうこともできる旨を定める取決め
(2) 管理理事会は,次のことを決定する権限を有する。
(a)
審判部又は拡大審判部の構成員は,欧州特許裁判所又は共通の組織に勤務することができ,かつ,取決めに従い欧州特許裁判所又は共通の組織において手続に関与することができること
(b)
欧州特許庁は,共通の組織に対して業務を遂行するのに必要な職員,敷地建物,備品を提供しなければならず,かつ,共通の組織が負った出費の全部又は一部を機構が負担しなければならないこと
 

第X部 特許協力条約に基づく国際出願―EURO-PCT出願

第150条 特許協力条約の適用
(1) 1970年6月19日の特許協力条約(以下「PCT」という。)は,この部の規定に従って,適用される。
(2) PCTに基づいて提出される国際出願は,欧州特許庁における手続の対象とすることができる。その手続において,PCT及びその規則の規定が,本条約の規定により補充されて適用される。抵触する場合は,PCT又はその規則が優先する。
(3) 欧州特許庁が指定官庁又は選択官庁として行動する国際出願は,欧州特許出願とみなされる。
(4) 本条約において協力条約に言及する場合,その言及は協力条約に基づく規則を含む。
 
第151条 受理官庁としての欧州特許庁
 欧州特許庁は,施行規則に従って,PCTに定義する意味における受理官庁として行動することができる。この場合は,第75条(2)の規定を準用する。
 
第152条 国際調査機関又は国際予備審査機関としての欧州特許庁
 機構と世界知的財産機関の国際事務局との間の取決めに従い,欧州特許庁は,本条約の締約国の居住者又はその国の国民である出願人のために,PCTに定義する意味における国際調査機関又は国際予備審査機関として行動する。この取決めでは,他の出願人のためにも行動することを規定することができる。
 
第153条 指定官庁及び選択官庁としての欧州特許庁
(1) 欧州特許庁は,
(a)
PCTが効力を発生していて,国際出願において指定されており,かつ,出願人がその国際出願において欧州特許を受けることを希望する本条約の締約国に対して指定官庁となり,
(b)
出願人が(a)の規定により指定された国を選択した場合は,選択官庁となる。
(2) 欧州特許庁が指定官庁又は選択官庁であり,かつ,国際出願日が与えられた国際出願は,正規の欧州出願とする(Euro-PCT出願)。
(3) 欧州特許庁の公用語の何れか1で行われたEuro-PCT出願の国際公開は,欧州特許出願の公開に代わり,欧州特許公報に掲載される。
(4) Euro-PCT出願が他の言語で公開された場合は,公用語の1による翻訳文を欧州特許庁へ提出するものとし,欧州特許庁は,その翻訳文を公開する。第67条(3)の規定に従うことを条件として,第67条(1)及び(2)に規定する仮保護は,その公開日より効力を生じる。
(5) Euro-PCT出願は,(3)又は(4)及び施行規則に規定する条件を満たしている場合は,欧州特許出願として扱われ,第54条(3)に規定する技術水準を構成するものとみなす。
(6) Euro-PCT出願について作成された国際調査報告,又はそれに代わる宣言,及びその出願の国際公開は,欧州調査報告及び欧州特許公報における公開の告示に代わる。
(7) 欧州補充調査報告書は,(5)に規定するすべてのEuro-PCT出願について作成する。管理理事会は,欧州補充調査報告を免除すべきか又は調査手数料を減額すべきかを決定することができる。
 
第154条[削除](第158条まで)
 

第XI部 経過規定[削除]

第159条[削除](第163条まで)
 

第XII部 最終規定

第164条 施行規則及び議定書
(1) 施行規則,承認に関する議定書,特権及び免責に関する議定書,集中に関する議定書,第69条の解釈に関する議定書及び職員の定員に関する議定書は,本条約の構成部分とする。
(2) 本条約の規定と施行規則の規定とが抵触する場合は,本条約の規定が優先する。
 
第165条 署名―批准
(1) 本条約は,1974年4月5日まで,欧州特許付与制度の創設に関する政府間会議に参加し又は当該会議の開催の通知を受けて当該会議に参加する選択権を与えられた国による署名のために開放される。
(2) 本条約は,批准を条件として,批准書は,ドイツ連邦共和国政府に寄託する。
 
第166条 加入
(1) 本条約は,次の国による加入のために開放しておく。
(a)
 第165条(1)にいう国
(b)
管理理事会の招聘による欧州のその他の国
(2) 本条約の締約国であったが第172条(4)の適用の結果として締約国でなくなった国は,本条約に加入することによって再び本条約の締約国となることができる。
(3) 加入書は,ドイツ連邦共和国に寄託する。
 
第167条[削除]
 
第168条 適用の領域的範囲
(1) 何れの締約国も,自国が対外関係について責任を有する1又は2以上の領域について本条約を適用する旨を,批准書若しくは加入書において宣言し,又はその後いつでも,書面によりドイツ連邦共和国に通告することができる。当該締約国について付与された欧州特許は,その宣言が効力を生じた領域においても効力を有する。
(2) (1)に規定する宣言が批准書又は加入書に含まれている場合は,その宣言は,批准又は加入と同一の日に効力を生じるものとし,その宣言が批准書又は加入書の寄託の後の通告において行われた場合は,その通告は,ドイツ連邦共和国政府が通告を受領した日の後6月で効力を生じる。
(3) 何れの締約国も,(1)に規定する通告を行った領域の全部又は一部について本条約が適用されなくなる旨を,いつでも宣言することができる。その宣言は,ドイツ連邦共和国政府がその旨の通告を受領した日の後1年で効力を生じる。
 
第169条 効力発生
(1) 本条約は,その領域内において1970年に提出された特許出願の合計件数が少なくとも18万件に達する6国による最後の批准書又は加入書の寄託後3月で効力を生じる。
(2) 本条約の効力発生後の批准又は加入は,批准書又は加入書の寄託の後3月目の最初の日に効力を生じる。
 
第170条 最初の分担金
(1) 本条約の効力発生の後に本条約を批准し又は本条約に加入する国は,機構に最初の分担金を支払うものとし,その分担金は,払い戻さない。
(2) 最初の分担金は,批准又は加入が効力を生じるその日において,第40条(3)及び(4)に規定する割合に従い,当該国に対する百分率を,上記の日の前の会計年度に関して他の締約国が支払うべき特別財政分担金の総額に乗じて得た額の5パーセントとする。
(3) (2)に規定する日の直前の会計年度に関して特別財政分担金が要求されなかった場合は,同項に規定する分担金の割合は,特別財政分担金が要求された最後の年に当該国に対し適用されたであろう割合とする。
 
第171条 条約の期間
 本条約の期間は,無期限とする。
 
第172条 改正
(1) 本条約は,締約国の会議により改正することができる。
(2) この会議は,管理理事会により準備され招集される。会議は,少なくとも締約国の4分の3が会議に代表を出さない限り,有効に成立したものとみなさない。改正案を採択するためには,会議に代表を出して投票する締約国の4分の3の多数がなければならない。棄権は,投票とみなさない。
(3) 改正案は,会議により定められた数の締約国が批准し又は承認した場合で,かつ,その会議により定められた時に,効力を生じる。
(4) その効力発生の時に改正案を批准も承認もしなかった国は,その時から本条約の当事国でなくなる。
 
第173条 締約国間の紛争
(1) 本条約の解釈又は適用に関する締約国の間の紛争で交渉によって解決されないものは,何れか1の紛争当事国の請求により,管理理事会に提出するものとし,管理理事会は,紛争当事国の間に合意が成立するよう努める。
(2) 管理理事会が紛争を受理した日から6月以内に前記の合意が成立しない場合は,何れかの紛争当事国は,拘束力のある決定を求めて,その紛争を国際司法裁判所に付託することができる。
 
第174条 廃棄
 何れの締約国も,本条約をいつでも廃棄することができる。廃棄の通告は,ドイツ連邦共和国にする。廃棄は,その通告受領の日の後1年で効力を生じる。
 
第175条 既得権の保護
(1) ある国が第172条(4)又は第174条の規定に従って本条約の当事国でなくなった場合でも,本条約の規定により既に取得した権利は,損なわれることがない。
(2) 指定国が本条約の当事国でなくなった時に係属中の欧州特許出願は,当該国に関する限り,その時以後でも本条約が当該国に適用可能であるとして欧州特許庁により処理される。
(3) (2)の規定は,同項に掲げる日において異議申立手続が係属中であるか又は異議申立期間がまだ満了しない欧州特許に適用する。
(4) 本条の如何なる規定も,本条約の当事国でなくなった国が欧州特許を,当該国が当事国であったときの条約文により処理する権利に影響を及ぼすものではない。
 
第176条 締約国であった国の財政上の権利及び義務
(1) 第172条(4)又は第174条の規定に従って本条約の当事国でなくなった国は,第40条(2) の規定によりその国が支払った特別財政分担金を,機構から機構が同一の会計年度内に他の国が支払った特別財政分担金を払い戻す時においてのみ,かつ,同じ返還条件の下に返還される。
(2) (1)に規定する国は,本条約の当事国でなくなった後においても,当該国において効力を有する欧州特許に関して,当該国が当事国でなくなった日に有効であった基準をもって第39条に従う比率の更新手数料を引続いて支払う。
 
第177条 条約の言語
(1) 英語,フランス語及びドイツ語で単一の原文に作成された本条約は,ドイツ連邦共和国政府の保管所に寄託され,3つの本文は等しく正本とする。
(2) (1)にいう公用語以外の締約国の公用語で作成された本条約の本文は,管理理事会により承認された場合は,公式本文とみなす。異なった本文の解釈が抵触する場合は,(1)にいう本文を正本とする。
 
第178条 送付及び通告
(1) ドイツ連邦共和国政府は,本条約の認証謄本を作成し,それをすべての署名国又は加入国政府に対し送付する。
(2) ドイツ連邦共和国政府は,(1)に規定する国の政府に次の事項を通告する。
(a)
 署名
(b)
 批准書又は加入書の寄託
(c)
 第167条の規定に基づく留保又は留保の撤回
(d)
 第168条の規定によって受領した宣言又は通告
(e)
 本条約の効力発生の日
(f)
 第174条の規定によって受領した廃棄及び当該廃棄が効力を生じる日
(3) ドイツ連邦共和国政府は,本条約を国際連合事務局に登録する。